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一方その頃――――フォルウィーク城内・会見の間

ざまぁターゲットばんばん増えてます。

 王太子レオンと妃のレデリカが何度目かの言い合いをしている頃、王城内の会見の間では、畏まった素振りで作り笑いを浮かべる男女の二人組が、ラーデス王と会見の場を持っていた。


 片方は元勇者だったエルシド。今日は、いつもの戦士の装備を色男っぷりも上がる上等な生地を使った騎士の装いに変えて身を包み、ざんばら髪も櫛けずられ香油で整えられている。褒美として騎士爵の叙爵を受け、領地もなければ貴族でもない一代限りの名誉爵でしかないが、それでも王から賜った爵位に見合う身なりを選ぶ心がけは持ち合わせている。

 もう片方の女は、討伐の旅の途中でその腕前と性格を見初めて同行させた、精霊使いの女・ジザベルだ。彼女も騎士と対になるよう淑女として華やかに着飾り、知らぬ者が見たならどこの令嬢かと思う化けっぷりだった。

 どちらも元は庶民の出だ。ジザベルなど住所不定の浮浪術師だった。それがエルシドと出会って、良い方向に運命の流れが変わった。絶対に手放すつもりはないと、心密かに誓っている。


「ラーデス陛下、実はお願いと提案がございまして参上した次第で…」


 手もみせんばかりの裏のある笑顔を向けながら、エルシドはラーデス王に対して企みの口火を切った。

 通常ならば王の許しなく先に口を開くのは不敬になるが、ここは王と個人的に会見する非公式の場。それを承知の上で、王も話を聞けばそんなことなど些末事として忘れてくれるだろうと自信を持ってのことだった。


「なんだ、申してみよ。事と次第によっては聞いてやらんでもない」


 王のエルシドに対する心象はと言えば、現在のもめ事の発端を作った困者(こまりもの)だ。魔王討伐を成しえた勇者とは言え、要らぬ道草で余計な騒ぎを起こすような、重用できない下僕でしかない。

 そんな信用ならない男が、これまた下賤な女を連れて何事かと、ラーデス王は眉をしかめた。


「実は、聖女との婚約破棄に関してお困りとお聞きして、私の方からそれを解消できるご提案をお持ちしました」

「なんだと?……一体誰に聞いた!?」

「…私とて伊達に勇者をしていた訳ではありません。元々戦士ですから、何事も情報が重要であることは身に染みついてます。どんな些細な話題でも…それを辿れば…」

「分かった。して、提案とは?」


 長々と要らぬ口上に耳を貸す時間はない、とラーデス王は話を進めさせた。

 エルシドの方は、乗って来た王を見て素早く身を寄せ、わざと声を低めた。


「先達ての祝賀会で、私はこのジザベルをエスコートして皆様に顔見世に回っていたのですが、どうもあの場に聖女が参加しなかったことを知らなかった客人が多かった様子。私が連れ歩いて挨拶をしていたこともあってか、ジザベルをその聖女だと誤解なさった方が思いの外いらっしゃったようでして……どうでしょうか?このままその誤解を逆手に取っては?」

「…なるほどな…それは」


 実のところ、晩餐会で勇者一行の顔見世を使い、聖女が不参加なのを知らせぬままで王太子妃レデリカを聖女に仕立てる計画でいたのだが、その本人ががんとして実行することを拒否し、仕方なく王太子から婚約者として紹介するだけに留めておいたのだが。同じ場所で別の者達が、同じような効果を発揮していたと聞いて、ラーデス王はにんまりと笑んで見せた。


「下手に婚約破棄がバレるより、討伐の旅路で互いに心許しあうようになった勇者と聖女。その結婚を、陛下はその寛大な心で許して祝った、と始末をつければ一件落着かと?」

「なるほど、なるほど。それは好都合…さすれば、こちらの責ではなくあちらの責になる…」


 ラーデス王の脳裏で、素早く企みが組み上がって行く。

 ちらりとジザベルへと視線をやれば、その本人は満面の笑みを返して来た。


(これは人選をあやまったか。初めからこの女を立てれば、レデリカの機嫌を損なうことはなかったものを…まぁ、今からでも遅くはあるまい)


 そう心の中で決着をつけると、ラーデス王は一つ大きく頷いた。


「そなたの提案をのむとしよう。で、願いとは?」


 話が上手くいったことにエルシドは内心で胸を撫でおろし、最後に願いを口にした。


「誤解をそのままで、ジザベルを元聖女として勇者と聖女の結婚を大々的に公にして行いたいと思っております。つきましては、聖女本人を知る方々への根回しと、それの補強の為に陛下から何かしらの祝いをお願いしたいと」

「ああ、それくらいは十分計らおうぞ。王太子の婚礼の儀が無事に済み次第、そなた達の婚礼の祝いを贈ろう」

「「ありがたき幸せ!心待ちにしております!」」


 元勇者と偽聖女は、二人で身を屈めてラーデス王の色よい言葉に喜びを返した。

 ラーデス王もエルシドを使える男と思い直し、満足げに笑って二人を見送った。


 その全ての行為が女神含め神に対して無礼だと、誰も気づかない。 

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