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一方その頃――――フォルウィーク王城内

ここは、三人称に変わります。

少しずつ、謎の裏が明かされて行きます。

でも、聖女自身はまだ知り得ない情報となってます。

 フォルウィーク国王ラーデスは、苦虫を噛み潰したような表情で会見の間を後にした。後ろに従う従者も、薄暗い廊下に漂う王の機嫌の悪さを気にしてか身を縮めて付いて来る。

 

 王の命令は絶対厳守の事項だ。それがどんなに理不尽であっても王の勅命とあらば黙して従うのは、(しもべ)にとっては当然の事。いくら世を救う聖女であっても、国を司る王の考えに口を出すのは不敬極まりない。

 あそこで下がらなければ、打ち据えて投獄してもよいくらいだ、とラーデス王は内心で憤っていた。


(役目が終われば只の女…聖女と言えど、所詮は下民よ。我が王妃の様に貴族の娘であればまだしも、年老いた下人女が……)


 今も勝利の晩餐会は、大広間を冷めあらぬ熱気で満たして続いていた。

 家臣も貴族たちもやっと安心して過ごせることに喜び、そして勇者たちに感謝の言葉と栄誉を称えている。

 その勇者たちも、偉ぶることなく笑顔で貴族たちに後援と協力の礼を述べ、如才なく場を楽しんでいる。彼らの様に上手く下手に出ていればよかったものを…と、勇者たちを見やって思った。


 ラーデスは、無理に表情を穏やかなものに変えると、王の代わりに招待客の相手をしていた王太子夫妻の側へと戻って行った。

 座をしばし離れたことを詫び、さらりと話題を拾い上げて各国の王族や貴族の話しに耳を向けた。


「父上、ご面倒をおかけしましたが、無事にすみましたでしょうか?」


 人が離れ、少しだけ間が開いたと見るや、笑顔だけは絶やさずに王太子がこそりとラーデスに声をかけた。


「ああ、全て事もなく終えた。お前は心おきなく先を見よ。ただし、分かっているな…?」

「…はい。妻には、きちんと言い聞かせております」


 二人はあえて顔を見合うことなく広間を見回しながら、小声で言い交わした。


 表向きは、王太子の側に侍る姫が聖女であると示すこと。

 裏では、嫁いで来た姫に、自分が聖女であると装わせること。


 王太子も、この計画には大賛成だった。元々は王太子が父王に告げた愚痴が発端だった。

―――聖女とは言え、下人の娘などを娶りたくない―――と。


 この愚痴は、王太子の母である先代聖女が貴族の出だったことにある。同じ聖女であっても、庶民出の今代は母より格下だと思っていることも。そして、息子がそんな愚かな考えを持っていることを知らぬまま、王妃は数年前に亡くなっていた。

 生きていたならば、王太子をこっぴどく叱りつけ、それに同意した王に『聖女を娶る理由』を離縁覚悟できっちり伝えていただろう。亡くなった王妃は、まさか王がその理由を知らないとは思っていなかったのだ。自らが聖女だった時、すんなり婚約が決まり、討伐を終えて帰還後すぐに婚礼の儀が整っていただけに、何の憂いなく未来(さき)も安泰だと思って。

 

 しかし、王妃のその心とは裏腹に、王は『聖女を王族が娶る』理由を知らずに戴冠した。

 それと言うのも、先代王の崩御直後から起こり出した第一王子と第二王子の権力争いが発端だった。

 先代は順当に第一王子を立太子させるつもりで、病床に第一王子を呼んでは、王から後継者にしか伝えられない口伝を説いた。その中には、魔王復活に際しての聖女の扱いも含まれていた。


 曰く、聖女との婚礼の儀で、つつがなく魔王を討伐し終えたことを各国の王侯貴族を集めて伝えること。そして、必ず初夜を迎え、それを女官に確認させて大神官へ伝えること。今代聖女が『清い乙女』であっては、次代聖女の選定に差し障ること。これはフォルウィーク王家に、女神様から下された厳命である。命を賭して厳守せよ!と。


 病にやせ細った王の口から、何度も繰り返された事柄だった。第一王子はそれを黙って聞き、父王の体を気遣いながらも残された時間の短さに必死に学んだ。

 だが、それも空しく王崩御後に第一王子は毒殺され亡くなった。以降、そこで聖女に関する伝えは切れてしまったのだった。


 それを知らぬラーデス王は、聖女の位を持つ女を王族に迎えることは一種の習わし程度のことだと誤解したまま戴冠し、先代聖女を娶った。だから、王太子と今代聖女の婚約の儀は行ったが、聖女が旅立った後すぐに隣国と密談を交わして、まだ嫁ぎ先が決まっていなかった末の姫を貰い受けたのだった。


 隣国の姫はまだ年若く、勇者と聖女を女神から賜るフォルウィーク王国に不信を訴えることもできず、ただただ不安と王太子に対しての猜疑心を抱いて震えていた。


 こうして、王も王太子も全ては上手く行ったと思っていた。

 自らが絶対の立場にあるのだ、と。

 

 

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