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第15話 聖女は魔王と踊り始める

もう一話(16話)更新します。

一気にざまぁ会場へご招待!開演直前ですから、ご着席はお早めに(´∀`)b

 その日から、大河の向こうは戦場となった。

 小国の王たちは、初めての魔王軍の襲来に、すぐに同盟を組んで兵を差し向けてきた。でも、小国の一つと変わらない規模の魔王国だけど、戦況は十分にこちらが優勢だった。

 

 なにしろ魔王国が攻め入った側であり、常に戦場は小国連合の地であること。連合とは言え、隙あらば漁夫の利を狙って来たような、肚に一物持ちの卑しき者達が王家や貴族をやっている国々の集まり。国民からの搾取を第一に国政を考え、民の苦労など見もしない者たちに民が命をかける訳はなく、そんな兵の寄せ集めで纏まる訳が無い。


 大体、フォルウィーク王国に勇者一行を差し向けてくれと依頼に来た時、彼らは魔王軍からもたらされる被害を訴えていたはず。魔王に操られた魔獣が溢れなんて言っていたけど、魔王クライヴ様にはそんな影響力はありませんでしたし、防衛は出しても攻めに入ったことなど一度もありません。

 魔王復活を騙った詐欺よね?


 そんな愚痴を聞いたクライヴ様は、私を優しく抱きしめて下さり、


「勇者一行と言うのは、フォルウィーク王国にとっては金儲けの大事な商品であり、依頼した小国にとっては我々を討伐するための傭兵隊でしかなかったのだ。勇者や供の者だとて、それなりの実入りがあっただろう?それでなくても道中では勇者勇者と崇められ、王城では歓待の嵐だ。帰ればたんまりと褒美を受け取ったことだろうさ。

……大損したのは貴女だけだ。しかし、それで良かったのだ。それが女神様の与えた運命だったのだろう」


 そう語って慰めて下さった。


「そして、貴女が苦しみ抜いて決意した運命は、我々にとって千載一遇の好機だ。勇者などと言う余計な物を排し、これで純粋に報復の火ぶたが切れる!」


 抱きしめられているからこそ、感じ取れた高揚と汚辱返報の喜び。


 こうして戦いが始まってみると、本当に魔王軍は強かった。確かに常人が怖れるほど圧倒的な力を持って、その力を遠慮なく振るっている。空にはよく躾けられた翼獣騎士団が舞い、地には見たことのない広範囲を攻撃する魔法が飛んでいる。

 あちこちから上がる高く黒い煙の柱は、人の命を天に還す(しるべ)になるのか。

 どうか女神様。罪なき人々をお守りください。


 私はテラスで跪き、手を合わせ長い間祈っていた。


「お姉ちゃん?」


 可愛い声が、後ろからそっとかけられた。

 はっとして振り返れば、少しだけ開いた扉の隙間からマディーナが顔を覗かせ、心配そうに私を見ていた。

 彼女は今、王都の孤児院で生活を始めている。朧げになった人としての生活の仕方を、同年代の子供たちと一緒に習いながら覚えている最中だった。時々私は孤児院へ手伝いに行き、マディーナも私を訪ねて王城へとやって来た。

 マディーナの腕から逃れたリルクが、ぽよんと跳ねながら私の側まで飛んで来た。その後を、質素だけど女の子らしい可愛いエプロンドレス姿のマディーナが追いかけて来た。


「今日はどうしたの?」

「お姉ちゃんが悲しそうだってリルクが…」

「リルクが?そう……慰めに来てくれたのね?ありがとうマディーナ。それにリルクも」


 跪いたままの私にマディーナは抱きつき、頬を寄せて背中を撫でてくれる。孤児院の修道女さんがそうしてくれたのを覚えていたらしく、人を思いやる気持ちを持ってくれているマディーナに心の隅がほんのりと暖かくなった。 リルクもそうだ。彼はとても優秀な魔物と認められ、昼間は孤児たちの相手をし、夜には川向うへ戻って《魔族》や協力者の捜索を手伝っていた。

 戦争前も今も、保護されたり避難を希望したりする人たちはどんどんやって来る。彼らを迎えて怪我を治したり回復を掛けたりするのが、今の私のお仕事だった。(「たり」は重ねて使う)

 

「戦争が悲しいの?」

「そうね……でも、これは私の戦いではなく、マディーナ達の戦いだわ。だから悲しいけれど祈るだけ」


 あの国を恨んでいるかとは、この小さな少女には訊けない。それは彼女の心の秘密だから。


「私も祈っているよ?修道女さんたちと子供たちと。もうこの先、誰も殺されたり死んだりしませんようにって」


 私ははっとした。彼女たちは、戦争のことだけじゃなくもう先を見ていた。戦争が終わった後の世界をどんなものにするか、を。


「クライヴ陛下がきっと良い世界にして下さるわ」

「それなら私は早く大人になって、幸せな国を作るお手伝いをするの!お姉ちゃんもよ?」

「ええ。私もマディーナと一緒に!」

「大好き!」


 小さく暖かな唇が、冷えた私の頬に柔らかな温もりを灯して行った。





「呆気ないものだな!アレックス!」

「そんなことは初めからご承知のことでしょう?我々が、あんな連中に負ける訳がないっ!!積年の恨みは年寄りの方が深いのですから、将軍たちが手を緩めることなぞあり得ないんですよ!」


 私は呆気にとられながら、魔王様と宰相様お二人にお茶を用意していた。

 だって、ここは私に用意された客室の居間で、お二人の執務室や軍略会議室はこことは正反対の棟にある。なのに、なぜかお二人揃っていらっしゃり、腰を落ち着けた途端に戦況のお話。


「しかし、さすがに五日ももたないとは…。一国ではないんだぞ?四国同盟軍だぞ?」

「四つ纏まろうが、小物は小物ですよ。平時には互いに腹の探り合いしてるだけに、()()()()()()()だったではないですかっ。我々は別に戦争好きではないんですから、早く終わるに越したことはありません」


「戦争は、終わったのですか?」


 私がそろそろと口を挟むと、お二人は初めてそこに私がいることに気づいた様子で固まった。けど、宰相様がちらりとクライヴ様を横目で睨み、動きはすぐに復活した。


「あ…ああ、戦い自体は終わった。あとは戦後処理だ。これで心おきなく大本を叩けるぞ。フェリシア」

「はい。お待ちしておりました」


 私はしっかりと力をこめて返答した。

 戦争が始まる直前、小国はまたもや魔王討伐を依頼するために、フォルウィーク王国に使者を送ったのだそうだ。あちこちに散らばる間諜が逐一知らせる中に、その情報はあったとクライヴ様は教えて下さった。

 私達――――いいえ、私はそれを待っていたの。

 今頃、王も大神官も慌てていることでしょう。この世に聖女は一人だけ。

 あなた方が、下賤の女だ下人の女だと卑しんだ私は、いまだ聖女でおりますわ。


「さあ。奴らの黒い肚の中から、今度はどんな謀計が生まれることやら。見物だぞ?」


 先ほど終えた戦いよりも、クライヴ様の双眸はギラギラと輝いて見えた。


「まずは偽の聖女様を立てるでしょうな。そして剣は、宝物庫から引っ張り出した名ばかりの(なまくら)を用意し、腕自慢の洟垂れか甘い汁の味が忘れられない愚者に勇者の名誉を授けるのでしょうよ」


 澄ました顔でお茶を飲みながら、宰相様が後を続けた。

 なんて腹立たしく馬鹿々々しい企み。


「あの程度の低い愚物共の考えそうなことだ。それくらいが関の山だろうな。まぁ、そうであって欲しいのもだが」


 魔王様と宰相様は目を見合うと、ニヤリと凶悪な微笑みを交わしていた。


 では準備をいたしましょう。今度は私の戦場です。

 そして、女神様の定めた裁きと断罪を!


誤字訂正 1/6

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