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第14話 聖女は魔王の手を取り微笑む

おまた~(笑)

さあ、始まりました。ざまぁの開幕です。しょっぱなからスパッとは行きませんよ?

ジリジリネチネチ始めますんで、ついて来て下さい。

 ここは、ディアベル魔王国。黒髪と赤い目を持つ者たちの国。国王クライヴ=ノヴァ=ディアベルは、三代目を継いだばかりの若い王だった。


 この国の存在は、樹海の近隣の国しか知らないだろう、と彼は言った。

 建国して三百年ほどしかたたず、元は樹海へ逃げ込んだ忌子たちが集まって創った小さな町程度の王国から始まった。

 忌子とは何か?と問われると、ただ常人より魔力を大量に持ち、珍しいスキルを持つ子が生まれやすい。容姿の違い以外の特徴はそれだけだ。けれど、それが他者を怖れさせた。

 武器を持たずとも自分達より強く、剣を持てばもっと強い。それに自分たちの知らないスキルを持っている。戦いになったら勝算は低い。それなら無力な子供の内に――ーそれが忌子を抹殺する真の理由。初めから味方にすることよりも、敵としてみてしまうのは奇異な容姿の所為だった。


 ならば逃げるしかない。人の手の届かない場所が目の前にある。むざむざ嬲り殺されるくらいなら、イチかバチかで樹海に望みを。


「誰も空を飛んだことなどないから、樹海の向こうはすぐに海だと思っている。こんなに広く快適な平野部があり、鉱山もあれば自然にできた湾もある。樹海とここだけで回して暮らせるから私達は全く困らないし、外に打って出るつもりなど毛頭ない。だが、外の奴らは樹海を狙って自滅し……挙句に勇者一行を差し向ける」


 城の最高部にある見晴らし台に上り、ぐるりと見渡す。そこはフォルウィークの王都など問題にならない程の広大な平地が東西に続き、城を中心に放射線状に城下が広がり、田園や畑が伸び、その向こうに村や町が点在していると言う。

 私は目を伏せ、魔王と言う謎の生き物を退治しに来たつもりが、実は小国なれど他国の領土へ戦を仕掛けに来ていたのだと知って落ち込んだ。無知は罪だけど、それ以上に知ろうとしない者の方が最悪だわ。


「では、あそこは…私が打ち入った場所は?」

「あそこは、国境砦だ。あの辺りだけが樹海が切れていて攻め込まれやすい。近隣の馬鹿どもが頻繁に手出ししてくる場所だったんだが、祖父殿が退位前にあれを建てた。そこから魔王城などと言って勇者一行が訪れるようになった」

「では、なぜ陛下自ら砦へなど?」

「最初は親父殿が面白がって始めたんだが、王が倒されたことにしないと勇者は帰らんだろう?だから、ああして相手をしている。まぁ、今では砦を破壊されるまでになって腹も立つがな」


 苦笑を浮かべて軽い口調で話しているけど、彼の体からはグラグラと煮えたぎる様な怒りが溢れている。


「フェリシア。貴女はどうしたい?」

「私にできることは、ここでじっと隠れて、次の聖女指名ができないことを思い知らせるだけ。あとの裁きは女神様に任せるわ…」

「それでいいのかい?聖女フェリシア。裁きも断罪も君が下せる立場なのに?あそこまでの屈辱を味わわされて、まだ黙っているつもりか?」

「でも!私は手を下す力を持たないわ!!」

「ならば、貴女の剣に私がなろう。私にも断罪する権利がある!」


 彼はそう言うと私の前に跪き、私の手を取って掌の真中へ口づけを落とした。

 それは愛を欲するものと言うより、私が立ち上がるのを懇願する口づけだった。すると私の心が、それを惜しむ気持ちで揺れ動いた


 そして彼は―――魔王クライヴは語った。

 女神様を侮辱し、罪を罪とも思わぬ愚者たちに贈る、私達からの裁きと言う名の復讐劇を。



***



 私がフォルウィークの王都を去って二年後、魔王の復活の兆しが宣言された。勇者たちの手によって破壊されたはずの魔王城が、再び同じ場所に現れた。それは以前より堅牢で、砦と言うよりも要塞と言った方が似合う代物だった。その上、今までになかった二重の砦壁が東西に聳え立ち、樹海を繋ぐ形で張り巡らされた。


 今までにない早さの復活に、近隣諸国は大いに慌てた。それまで十年以上は確実に保たれていた安寧が、いきなり崩れたのだから堪ったものじゃなかっただろう。

 すぐに彼らはフォルウィーク王国へと使者を送った。その間に兵を出して城壁(砦を魔王城だと誤解している)くらいは切り崩そうとした。だけど、それは全くの無駄だった。


「今回は、総力上げて頑張った!今迄みたいに、破壊されるのを前提に造った張りぼてと違うからなっ!どうだ?聖女様」

「では、私は家族を無事に保護して下さったお礼に、こちらをお贈りいたしますわ」


 私が覚悟を決めて魔王様の案に同意した後、彼は人知れず使いをやって私の家族を保護して連れ帰った。あの愚王が真相を知って、人質にしないとも限らないからと。

 使いの話に半信半疑だった両親や兄は、私と顔を合わせた途端に号泣して抱きしめてきた。私が旅立った時、お互いに決断して再会は諦めていただけに、無事を確かめられたことが兎に角嬉しかった。

 

「天の御力よ 女神の光よ 弱き者を護り給え 悪心を払い給え 【神聖結界】」


 武骨な石造りの雄々しい要塞と二重壁を、キラキラと光り輝く強力な結界が覆って行く。所々で陽の光を受けて虹色に輝いて見える。


「これは凄い!だが、あまりにも似合わん光景だなっ」


 確かに似合わない光景に、私は声を上げて大笑いした。まるで、厳つい鎧を着こんだ巨大な戦士を、可愛い花々で飾り立てた様な光景だった。

 

「では、今まで勝手な理由で私たちを迫害してきた報いを受け取って頂こうか……たっぷりとな」


 笑いを収めた魔王様は、要塞の頂上から近隣の国々をぎらつく炎色の双眼で睥睨し、凶悪な笑みを浮かべた。

 今まではただ防衛の為に必要のない傷を負うことはないと、逃げることを前提に軍を敷いていたが、今度は違う。王も貴族も国民も、無残に殺された者たちの恨みを知れ!


 そんな彼の声が聞こえて来るようだった。

 でも、無抵抗な者に剣を向けるのだけはやめて下さい。それだけは伝えた。


 遠くで出立の号令が響いている。魔王様が、気炎を上げて兵たちを鼓舞している声がする。

 祈るだけしか、今はできない。私の戦いは、ここにはないから。




 それから私は部屋へ戻り、二通の手紙を書いた。

 こちらは私の舞台。巻き込まれただけの方々には、早々に舞台から避難して頂きましょう。

 一通は、エリエンスク王国の国王様宛て。それと一緒に、()()へ手渡して欲しいと添え書きして、もう一通を同封した。

 その内容を信じるか否かは、届けられた相手に任せた。


 

少しだけ補足文章を追加 1/5

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