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一方その頃――――隠れの樹海&魔王城内

 大陸の最北端に、『古の魔樹海』やら『古代神の森』やらと称された広大な樹海がある。

 そこはどの国の領土にもならず、誰の手にも持て余され放置された場所だった。とは言え、大昔から近隣の国々は、何度も兵を出して開拓を進めて自国の領土に含めようとしてきた。が、一度として成功したためしがなかった。

 ある国の兵達は数日の内に魔獣の群れに襲われて壊滅し、ある国の騎士団は樹海で迷ったあげくに何日も彷徨い餓死した。生きて戻った者でも、あそこは死を司る神の領域なり、決して人の身で侵入してはならない場所と告げ、そのまま狂い死にしたと言う。

 それ以降、どこの国も樹海に手出しすることなく、手前に流れる大河からこちらへ近づく者はいなくなった。


 そんな樹海の隅に、一本だけ人の手で開けられた樹海へ入る道がある。その前に、唐突に奇妙な扉が現れた。音もなく扉は開き、中から貴族らしい一行と黒髪の男が出て来た。


「ここが、隠れの樹海……。『古の魔樹海』と聞いたことはありますが…人は踏み込めないと」

「確かに大昔から人を拒絶してきた。でもね、助けを求める者や虐げられてきた者達を受け入れる、慈悲の心を持った樹海なんだ。君の父上はよくご存じのはずだ」


 見るからにおどおどろしい雰囲気の漂う深い森が、奥の奥まで続いていて、道の先は薄闇の中へ消えて行って定かではない。

 フォーゼル子爵の子息ウィリスは、母と祖父共に道の前に立って、呆然と先を見つめていた。母親であるフォーゼル子爵夫人など、すでに逃亡の疲れもあってか今にも気を失って倒れそうな顔色だった。


 それでも決心は揺るがない。父であるフォーゼル子爵にきっちり言い含められていたから。この樹海の奥に人里が存在し、そこにあるフォーゼル子爵が密かに立てた別邸で自分の帰りを待てと。


「迎えが来たよ。では、行こうか?」


 やがてその一本道から、フォーゼル子爵家の物よりよほど頑丈で立派な馬車が近づいて来て停まった。黒髪の男クライヴは御者と何事か言葉を交わすと、クライヴの連れの騎士が開けてくれた出入口へとウィリスを押しやり、夫人の手を取って乗車を促した。


「知らんかったよ。息子がこのような所に隠れ家を造っておったとは」

「アルフレッド様は、とても賢いお人ですよ。それに加えて度胸もおありだ。きっと、行けば先代様もお気に入りになること間違いなしです。それに――――お知り合いの顔をみつけることでしょう」


 最後に乗り込んだ先代子爵の耳元に、クライヴはそっと囁きを落とすと扉を閉じた。

 手を上げて、御者に発車の合図を送る。馬車は軽快に走り出し、馬さえもなんの恐れも見せずに大人しく樹海の中へと向かった。その後ろを、クライヴが頼りにしている騎士たちが護衛と案内の為に騎乗してついて行った。

 それを見送ったクライヴは、指先で宙に何かを描くと口の中で呪文を唱え、その場から消え去った。




「アレックス!子爵のご子息を迎えに行ったら、面白い物を発見したぞ~」

 

 宰相執務室にいきなり現れたクライヴに、凄腕賢人宰相アレックス=ノヴァ=マスティマ公爵は寄っていた眉間の皺をぐぐっと深くした。

 クライヴよりわずかに年上のはずだが、外見的にはずっと年上に、そして容貌的には老成の域まで達している様な面構えだった。


「陛下―――それで、王冠は?」

「ん~~、待ってたら、向こうから帰ってきそうだ」

「魔王のお立場を、お忘れとか?それに、王冠には手足もございませんし、戻って来る様な術も掛かってはいないはず」

「忘れてはいない。が、待てば土産付きで戻って来るモノを、無理することはない」

「だから、王冠には手足――――」

「土産の方には、手足と賢い頭が付いている。心配無用だ」


 ディアベル魔王国三代目国王クライブ=ノヴァ=ディアベルは、腕を組み胸を張った。

 

 彼は長年の友人の頼みで、その家族を樹海の中の秘された人里に匿う手はずを整えに行った。その帰り道で、少し遠回りをして勇者と聖女の結婚を覗きに行ったのだが、そこで見た聖女と称する女が、精霊使いの女に入れ替わっていることに気づいた。

 本来の婚約者であった王太子が、隣国の王女を娶ったことは間違いない。婚儀まで見に行かなかったが、確かめなくても王都中に噂話が散らばっていた。誰にどう聞いても、若く愛らしい姫様であると話した。

 若く愛らしいの形容は、クライヴが見た聖女とは正反対だった。


「私の見た彼女は、女性として成熟していて、でも清楚でしっとりと――――」

「もう出て行って下さいませんか?陛下。女性の妄想をするのなら、ご自分の部屋の寝台の上でどうぞ!」


 もういっそのことノミで削り出せば?と言いたくなる深さの眉間の皺に気づき、クライヴはそろそろと後退しながら出入口へと向かった。


「ああ、そうだ。子爵ご一行様は無事に里へ送り届けた。あとは、ご本人が戻る時に連れて来るそうだ」

「了解致しました。では、早々に商人を向かわせましょう。…ご婦人がいらっしゃ―――先ほどの妄想相手は――――」

「全く違う!!私にだって夢があるんだぞ!」

「…夢…フッ」


 極寒の流し目を向けられ、鼻で笑われた。

 しおしおと項垂れたクライヴは、黙って執務室を出ると練兵場へと静かに消えて行った。


誤字訂正 1/3 1/6

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