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第1話 聖女は下女ではありません!

 今回は”今日も聖女は叫ぶ!「覚えてろ!恨みは絶対忘れない!!」”を下敷きに、連載作品に練り直した長編作になります。違う部分も多々ありますので、新作としてお読みください。

 ざまぁ!展開ありですが、メインは恋愛物となりますので、ダメな方は戻ってください。


 では、最後までお付き合いください。よろしくお願いします。


 王都を出発し、長い旅に出てから一年と半分が過ぎた。

 女の一人旅は、この世界ではありえない。まさに無茶・無理・無謀と言われる行為。男の一人旅でも、腕に覚えがあるか危険回避のスキル持ちでない限りは、それなりに引き留められるほどのこと。それが女の一人旅となれば、もう自殺願望でもある正気ではない女扱いになる。


 でも、私はそんな旅を一年と半分の間、過ごして来た。武器は短剣一本。杖は、道を歩くための介添え用にあるだけ。腕力なんて見た目通りにしかなく、体術は護身用に軽く習った程度。そんな私が長い旅路を無事に過ごしてこれたのは、ひとえに女神様から賜った加護があるから。




***




 およそ一年と半年前まで、私はこの世界でただ一人の《聖女》と呼ばれて来た。

 女神様から聖女として名指しされたのは、私がまだ両親と兄の四人でのんびり田舎の村で暮らしていた15才の時だった。

 各国に魔王出現の前兆が報告され、女神様から聖女指名の神託が下される唯一の国であるこのフォルウィーク王国の大神殿で、大神官の元に女神様は神託として私の名を下した。大神殿からの先触れに驚嘆しながらも大喜びする両親や兄、そして村中の人々。そんな彼らに見送られながら、先触れの後を追うようにやってきた大神殿からの煌びやかな行列に迎えられて王都へと運ばれた。


 聖女のお役目は四つ。一つは、大神殿の『祈りの間』に篭って、勇者の選定条件を女神様の父神である主神様から神託として賜ること。二つ目は、王城奥にある『勇者の大岩』から勇者の剣を解き放つこと。三つ目は、勇者の剣に選ばれた勇者と共に、神託で下された『この世に現れた悪心を持つ者』を倒すことだった。つまりは魔王を倒すのだと、大神官様から告げられた。

 そして、最後の四つ目は、お役を全うして帰国の後に王太子の妃になること。


 大神殿に着いた私はすぐに禊の泉で清められると、大勢の神官たちと祈りの間に篭って三日三晩祈り、主神様からの神託を賜った。

 勇者は、聖女の様に名指しで選ばれるのではなく、いくつかの条件が下されるだけだ。それに合う者達が王城に集められ、聖女しか開封できない大岩の中から現れた勇者の剣が勇者を選ぶ。


 選ばれた勇者と聖女は、王自らが選出した魔法使いと戦士を供にして、魔王討伐の旅に出る。沿道を見送りの民たちが埋め、私たちはその中央を馬車に乗って外門まで進んだ。歓声ををあげて手を振る者たちに応えて手を振り、民たちの願いを受けて意気込んで出発した。

 魔王が完全復活する前にその魔王城へと切り込んで行き、必ずや魔王を討ちとる!皆がそう心に誓っていた――――はずだった。


 魔王城への旅は、長い道程になる。王都から近隣の町へは馬車で行けたが、途中からは街道の様子も悪くなって馬に騎乗する形での旅になった。そうして、私たちは町や村に寄って魔獣を倒して淀みを浄化する。それが聖女と勇者の修行となる。

 一年、二年と時は過ぎ、本来ならそろそろ魔王城へと到達するはずが。


(またなのね…はぁ…)


 今代の勇者は、それはそれは色男だった。

 町や村に寄れば女たちが群がって宿に入るのが困難なほどで、他国の王都に寄ったならば、門前から貴族の令嬢たちの乗った馬車に先を塞がれる始末だった。そして、城や宮廷に謁見のために向かったならば、もう監禁と言っていいかもしれないほど留め置かれてしまう。

 そんな状態に焦りを感じるのは、いつも私だけ。勇者と仲間たちは、とにかく侍る淑女たちを相手にしながら高価なお酒や豪華な食事を楽しんでいた。それに味を占めた彼らは、行かなくてもいいはずの他国へ逆戻りする様な道程を辿って向かい、またそこで長々と逗留した。


(何のために私たちが旅をしているのか、理解しているのかしら…)


 どこの国へ行っても、私は独り。王や皇帝との謁見が終われば神殿へと案内され、簡素な精進料理を食した後に、冷たい禊の泉で心身を清めて夜更けまで祈るだけ。こうなると、村や町で宿を取って泊まる方が楽だと思ってしまう。


 そんな旅の果てにどうにか魔王城へ到着した頃には、なんと私は二十歳を越していた。そして、いつの間にか仲間に女性の精霊使いが増えており、後方支援の私の負担が増えていた。


 彼らにとっては私は足手まといらしく、浄化と治療魔法のスキルがなければ用無し女と陰で嗤っていた。夜の付き合いをさせたくても聖女の力は『清い乙女』でなくては行使できず、加えて王太子の婚約者となれば無体を働く訳にも行かない。だから下女がいる程度の認識で使えばいいと。

 実際、彼らは私を聖女としての扱いとは思えないほどの横柄な態度で、少しの怪我でも呼び出して治療させ、自分が汚した物を浄化させ、少し動いただけで疲れたと言っては回復を命令して来た。

 理不尽な思いに駆られたが、それでも魔獣との戦闘になれば彼らが前に出て私を護りながら戦う。それが続く限りはと、私は黙って彼らに従うしかなかった。

 

 魔王城へ打ち入った瞬間から、過酷な戦闘が始まった。

 これが最後とばかりに私は酷使されまくり、結界も回復も常時要求され、挙句の果てには私の持つポーションまで奪って行く始末だった。


「―――やった…やったぞ!魔王を倒したぞ!!うをおおおおおっ!!」


 勇者が勝鬨を上げ、掲げた手から勇者の剣が消えた時には、私は意識を保っているのもやっとの状態だった。なのに、彼らは互いに抱き合い、手を打ち合い喜びの声を上げる元気が残っている。それを眺めながら、私はどうにか長い苦行が終わったことを内心で安堵し、これ以上の努力をする気力など欠片も残っていないことを自覚した。

 だから、私は少し前にこの目で見たことを黙っていた。


(…誰も気づかなかったの?その眼は節穴?あんなにもあからさまだったのに…?)


 瓦解した魔王の玉座辺りはもうもうと粉塵が舞い上がり、それが晴れた後には魔王の姿は消え、豪華なマントと王冠が転がっているだけだった。

 でも、私の目にははっきりと見えていた。魔王が粉塵と投げ捨てたマントを目くらましに使って逃げ出した姿を。


(私以上の索敵スキル持ちの勇者や魔法使いなのに?……それとも、わざと見逃したの?)


 勝利と各々の健闘を互いに褒め称えながら歓喜に酔う彼らを尻目に、私は黙したまま魔王の残した戦利品を魔法鞄の中へとしまい込んだ。


 だってこんな状態で指摘しても、彼らのバカ騒ぎに水を差して睨まれるだけなのは知っている。空気の読めない女だと冷めた目で睨まれて、訳の分からない理由で精霊使いの彼女と比べられて見下げられる。

 それに、私はもう気力も体力も残っていない。これから再度の探索なんて付き合ってられない。ならば勇者が「魔王を倒した」と言うのだから、それに従っておくのが賢い選択だろう。

 後がどうなろうと、それはリーダーである勇者が責任を取ること。


「聖女よ!どうした?」

「…大丈夫…魔力が切れそうなだけ…」

「そうか。では、皆!国へ帰ろう!!魔法使いよ、先触れを!」

「おう!」


 それにしても元気だこと。死に体の私じゃなく、元気いっぱいの精霊使いの彼女を抱きかかえて歩き出す彼らに冷めた目を向けながら、私は黙って彼らの後ろを追った。


 この後に来る、最大の不幸を予見することなく。


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