登校前
二千九十年 四月 二日 七時二十分 とある人物の寝室
「ふぁ~~よく寝たな」
俺はそんなことを呟きながら目を覚ました。天気は快晴、目覚めもいいし、新しい高校生活もいいものになりそうな気がする。
俺はそんなことを思いつつ、ベッドの横にあるこぢんまりとした机から俺はMCT(Magic Control Terminal)を手に取り、装着した。
大雑把に言うとMCTとは魔法行使を補助する端末だ。メガネのようなウェアラブル端末である。
ちなみにMCTはメガネ型ウェアラブルコンピュータ――スマホのメガネになったようなもの――と同じ機能も有している。
そのMCTを起動すると、予定のカレンダーに『9時から入学式』と表示された。そう、俺は今日高校に入学するのだ。
その高校とは『国立第二等魔法士育成学園』という読んで字の如く、魔法士を育成するために出来た高校である。
これでも俺は一家という魔法士で知らない人は居ないと言えるほどの血族の直系。魔法士になるのは当然だ。それに俺はやりたいこともあるしな。
そんなことを思っているとコンコンコン、心地よいノックの音が聞こえる。いつも通り、安永さんが来たのだろう。
「どうぞ~~」
「果因さま、朝ごはんが出来ました」
「毎度のことながら、ナイスタイミングだな」
「お褒めに預かり、光栄です。どうぞ」
安永さんは家政婦だ。といっても、母が壊滅的に料理下手なのを補うために来ているので、料理を作るかスケジュール管理しかしていない。ちなみに彼女は魔法士で、元軍人なのに美人である。
いつも通り安永さんに先導され、机に着いた。机には我が妹、一 佳織が座っている。アイツここに来るのが早いな。
ちなみに偶然というかなんと言うか、アイツも中一になろうというところだ。現時点ではX粒子の放出量、保有量――魔法力のようなもの――が多いので羨ましい限りである。
「よう、早起きだな」
「お兄ちゃん、早起きは三文の徳って言ってね?早起きは良いことなの」
「ま、お兄ちゃんよりも早く呼ばれただけなんだけど!」
テヘ、とベタなポーズを妹がとった。あざとい上にそれが重い。妹は確かにかわいいのだろうが、なまじ妹なので全く嬉しくない・・・・・・3日に一回のペースでこんな感じのことをやられるので、辞めてほしいと切実に思う。
高校生活スタート早々げんなりした俺だが、安永さんが作った朝食は美味しかった。特に味噌汁が絶品なんだよな。ダシと味噌、豆腐の甘みのバランスが絶妙なのだ。
俺は思い出しながらシワ一つ無い綺麗な制服を着る。鏡を見ていつも通り、銀髪で普通な顔のことを確認した。
黒髪になってたらな~なんて思うんだけどな。もちろんなってない。俺は微妙な気持ちと未知の高校生活への興奮する気持ちを持ったまま家を出た