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「いなくなった愛猫の発見」

 ある日の客は、こんな相談をした。

「私の大事なフェーレが、いなくなっちゃったんです!」

「……フェーレというのは?」

「私が飼ってた猫です。三毛猫で、すごく可愛いの! ほら、写真」

 そう言って、スマホで何枚も何枚も猫の写真を見せられた。


「いつもは家の中で飼ってたんだけど、ある日窓の鍵をかけ忘れていたみたいで、自分で窓を開けて出て行っちゃったの! もう一週間も見つからなくて――どうやって暮らしているのか、無事でいるのか、心配で心配で……。お願いします! フェーレがみつかるかどうか、占ってもらえませんか?」

「いいでしょう」

 青磁は占いを行う。

 だが、その結果に妙な顔をした。


「……普通に探しても見つからない? なんだ、こりゃ」

「え、どういうことですが」

「いや、こんな中途半端な占いがでたことは初めてで……。普通じゃない方法って、なんだ?」

 そのとき、ルーチェが青磁を覗き込んだ。


「フェーレちゃんが、どのあたりにいるかは占えないの?」

「いや、それは分かる。――そうだな、若木市三丁目の辺りだ」

「えっ! そんな遠くまでいっちゃったの!?」

 青磁が告げた場所は、この場所から車で三十分ほどの距離だった。

「困ったな……私は車運転できないし……自転車でいったら、ずいぶん時間が経っちゃう。その間にまたどこかにいっちゃうかもしれないし……」

 客は思い悩んでいる。


「ワカギシサンチョウメってどこ? 地図はある?」

「ああ、俺たちが今いるのがここで、フェーレがいるのはここだ。……それがどうしたんだ?」

「うん、わかった。それなら、私が迎えに行ってくるよ」

 あっさり言うルーチェに、青磁はあっけにとられた。


「迎えに行くって……お前、車運転できんのか?」

「ううん。走っていけばいいじゃない」

 あっけらかんとしたルーチェの台詞に、青磁は絶句した。

「はあ!? お前、何言ってんだ!? 走っていったらどれだけ時間かかると思ってんだよ」

「このくらいの距離なら、そんなにかからないと思うんだよね」

「馬鹿か、こいつは……」

「馬鹿とは何よ! もー、いいわ。とにかく私がつれて帰ってくるから」

 ルーチェは外に出た。

 青磁と客も慌てて追いかける。


 外に出た青磁は、目を疑った。

 ルーチェが助走をつけてジャンプをした。すると、羽でも生えているかのようにその身体は高く飛び上がり、なんと民家の屋根の上に着地したのだ。

 優に五メートル以上は跳んだだろうか。

 驚くのは、それだけではなかった。

 ルーチェはそのまま屋根の上を走り、隣の民家の屋根へと飛び移ったのだ。

 そのスピードも半端ではない。

 そうして屋根から屋根へ跳躍を続け、あっという間にルーチェの姿は見えなくなった。


「あのお姉さん……何者なんですか?」

 客があっけにとられて言う。

「俺にも……よくわかりません」

 青磁にはそれしか答えるすべはなかった。 


 一時間後。

「この子で間違いないかしら?」

 ルーチェは、一匹の猫を抱いて帰ってきた。

「フェーレ!」

 客が駆け寄る。じっと見つめ、大事そうにそっと抱き上げた。

 フェーレがにゃあと鳴く。

「会いたかった、フェーレ! 迎えに来るのが遅くなってごめんなさい」

 客はフェーレをぎゅっと抱きしめる。そしてルーチェに向きなおった。

「お姉さん、フェーレを見つけてくれて、本当にありがとう。あなたのおかげだわ」

「私は、自分にできることをしただけよ。会えてよかったわね」

「うん!」

 客は何度もお礼を言って帰って行った。

 

 青磁はルーチェに言う。

「……一体、どうやって見つけてきたんだ?」

「別に、普通に最短距離を走って行っただけよ。あなたの言った辺りを走り回ったら見つけられたわ」

「走ったって……車で三十分の距離だぞ。こんなに早く……」

「クルマって、馬車のようなものでしょ? 本気で走れば、馬車より早く走れるわ」

「お前の足はどうなってんだよ……」

 青磁はうめく。もうルーチェには常識を期待してはだめだ。


「普通に探しても見つからないってのは、こういうことだったんだな。そんな探し方、普通じゃねえもん」

「でも見つかってよかったわ。あの子も喜んでたし。無事に魔素も手に入れられたわよ」

「まあ……そうだな。お前のおかげだ。礼を言うよ」

「私がしたくてやったことよ。別に構わないわ」

 ともあれ、今回も客を満足させられることができた。


 ルーチェが来てから、どんな占いがでても、結果的に客は笑顔になる。

 今までは占いなど、金のためにしかやっていなかったが、客の笑顔を見ることは、自分でも不思議なくらい、青磁にとって嬉しいことだった。

 それを嬉しいと感じる自分に、青磁は戸惑っていた。

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