SCENE03
以来私は学校に行かなくなった。先生が心配して家に来ることもあったが、そんな日は大抵部屋にこもって一歩も外に出なかった。
先生たちは事情を知らない。もちろん友達も。そんなことはわかっているのに、ついにみんなと同じ線に並べなくなったとわかると怖くて外に出られなかった。
幼馴染の裕が来ることもあった。彼はほぼ毎日放課後に来て、手紙を置いて帰っていった。彼は私の秘密をずっと前から知っている。だからこそ、私が学校に行けなくなったのにそれが関係していることも知っていた。
「菜月、いい加減にしろよ」
不登校二か月目。彼はついに切れた。
いつものように部屋にこもって人との接触を避けていた私に、勇はドアの外から冷たい声を発した。
温厚な彼が怒るはずがないと思っていたのは私の甘えだった。いつも私のことを許してくれていた裕なら、今度もまた許してくれるだろうと。
「いつまでそんなことしてるつもりなんだよ」
気づかないうちに低くなっていた裕の声に、私は思わず部屋のドアを開けた。
そこに立っていたのは、小さいときの優しい裕ではなかった。
「…裕、」
「明日朝来るから。学校来いよ」
困ったような顔をして私を許す裕は、もうそこにはいなかった。
強く言い放つ言葉の中に、彼の優しさが見えた。
「ごめん」
「ん」
ちょっとぶっきらぼうなところは昔と変わってないな。
そんなことを思いながら、私は裕の背中を見送った。