34、35
34 クリュー=マッザ
巫山戯るな! こんな所で死ねるかよ! 俺は、懐に隠し持っていた、もしもの時の薬袋を解き、目の前の大口へ中身を放り込んだ。
35 シントン=マーブ
雷鳴のような呻き声がこだました。貪食が空中で苦しみ始めたのだ。翼の、空気を叩く律動が乱れ、高度が落ち始める。そして大分低くなったところで、あの男が、口から飛び出て、
「待て、小僧!」
不運にもたまたま儂が氷を張っていなかった地点へ龍騎兵は降り立ち、そのまま小道へ駈けていこうとする。轟々が風を振るおうともしたのだが、悶える貪食の巨体が邪魔となって上手くいかないらしい。一瞬歯痒く苛立たしく思えたが、しかし、良く考えれば、まあ構わないだろう。
と言うわけで、龍騎兵を追いかけようとする彼女を寧ろ呼び止めたのだ。
「待て、騎馬を無くした者を追っても仕様が有るまい。それよりも、」
轟々は振り返った。
「ああ、そうだな。」
「そうだ、その通り。」
おっと、これは貪食の声だな。貪食がいつの間にか人の姿になって佇んでいる。その表情は忌ま忌ましげだ。
「あの若造め。ナエグ草とはやってくれる。」
「おお、感謝するぞ、貪食よ。流石だのう。」
「全くだ、アンタが居なければどうなっていたか、」
「世辞は良い。正門の方へ回ってやれ、コーンよ。」
「んん、ああ、そうだな。」
言われてみると、確かに、サルヴェイの護っている筈の西側が騒々しい。成る程、あちらも大変なようだ。
そういうわけで、轟々の背を追おうとしたが、
「待て、マーブよ、お前は残れ。ここを空けるわけにもいかんだろう。」
「おお、そうか。しかしお主は行かないのか。」
「生憎だが、ナエグ草、龍が極度に嫌う草の粉末を飲まされたせいでしばらく龍変化が出来ん。大した戦力になれそうにもない以上、火薬庫を冷やすのに必要なお主の護衛でもさせてもらおう。意味の有る人手だろう。」
「ああ、確かに儂も魔力を大分消費してしまっている。お主に任せられるならば安心だ。」
襲来に備えるべく、背中をこちらへ向けながら貪食は、
「しかし、失敗したな。ここ、火薬庫にはコルチェフでも配備しておくべきだった。奴の飛行術なら、屋根を狙われても平気だったろうに。」
儂も、反対側を見張る為に背を返し、
「おお、そうだのう。しかし、正直な話を言えば、」
「ああ、実際に襲撃を受け、しかもこれほど苛烈なことになるとは思ってもいなかった以上、事前の計画が精彩を欠いておっても仕様が有るまいよ。」
「儂も特に責める気はないが、それにしてもこの布陣を決めたのは誰だったかのう。サンの奴だったか、」
「いや、トゥユリコ卿は、読み上げて見せただけだ。確か、アレを持ち込んだのは、」
一瞬の間の後に、
「おい、マーブよ。無駄話は終わりのようだ。」
そちらへ翻ると、おお、新手だ。
「お前は、私の撃ち漏らしの退治と、火薬庫の冷却に専念してくれ。」
そういうと貪食は、腕を交差させ、まるで、己の爪を誇示するかのように、鉤状に指を曲げた両手を胸の辺りへ掲げた。
「我が炎の餌となれ、雑草共。」
弾くようにその腕が広げられると、開いた空間に炎の帳が出来、それが翔け、敵の方へ向かって行き、




