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33 シントン=マーブ
「〝貪食〟か!」
あの忌ま忌ましき黒龍が豆粒に見えるほどの、空を覆わんとする赤き巨龍が龍騎兵を脅かした。あんな巨大なドラゴンが、しかも我々に味方するように現れるとは、間違いない、貪食の龍変化だ! 濡れた果実の表面のように輝いている鱗を全身に纏う、その赤き龍は、まず一咬みで黒龍の体を両断し、残りの半分をもう一咬みで口の中に収め、ごくりと嚥下した。
助かったぞ、貪食、と、晴れやかに叫ぼうとした儂であったが、その気分は一瞬にして潰えた。哀れにも身を投げた黒髪の龍騎兵であったが、最期の冷静さを振り絞ったか、恐ろしい正確さで、第四火薬庫の屋根の上へ落ちる軌道の上に居るではないか! 拙い、恐らく屋根は無事でなく、下手をすれば大穴が開いている筈だ。無防備な、火の粉一つで破滅を起こせるような急所、今、あそこに辿り着かれるわけには、
貪食も気がついたか、その龍騎兵へ攻撃を仕掛ける素振りを見せたが、巨体故にやや鈍重となる爪や尾の一撃を、人間一人と言う標的へ目掛けるには些かの不安が付き纏うようで、だからと言って火薬庫へ炎を吐きかけるわけにも行かず、金縛りを起こしたように、一瞬、惑ってしまった。結局すぐに、爪での一撃を見舞おうと決心したらしく、大口を空けて黒龍の食べ屑を零しながら腕を伸ばそうとするが、龍の長くない腕は、如何にも届かなく、このままでは、あの小僧が、屋根へ、
奴にとっても殆ど致命的な筈の墜落の最中で、黒髪の龍騎兵は不敵にほくそ笑んでいた。が、突然その顔が見えなくなった。奴の姿勢が、空中で、木の葉のように翻ったからである。
「ああ!?」
ここからでも、その困惑の呻き声が聞こえた。なんだ、何が、起こった、
ようやくここで儂は気がついた。向こうの小路から現れて、緑色の杖を振るっているのは、〝轟々〟のミルチェ=コーン!
轟々の起こす風によって、その龍騎兵は運ばれていく。行き先は、大きく開いた、貪食の大口!
蒼ざめきった龍騎兵の顔が、貪食の顎の影に入って見えにくくなった。




