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30 ギランド=サーン
ずっと、ずっと、ずっとだ! あの命を受けてから今日まで、この男、ヘイロ=ブロックを打ち殪すべく修練を積み、そして、今、俺は、実際に陸離と渡りあっている!
その才覚と鍛練の多くを注いだであろう眩惑術を頼りに出来なくなった陸離は、最早、神格めいた化け物ではなく、俺はまだ生き残っていた。刃が飛んでくる。弾く。お返しに、充塡の終わっていた右手から一発の光線をお見舞いする。……外れたか。こんな遣り取りを俺達は延々繰り返していた。
神話紛いの存在でなくなったとしても、圧倒的強者で有ることには変わりない。そうは思っていたし、実際、陸離から放たれる魔導は、この上なく洗煉され艶っぽさすら纏っていたが、しかし哀しきかな。術師の体力が追いついていない。足は縺れ始め、息の度に肩が上下している。いつ転げてもおかしくない有り様だ。
「はあ!」
その、喘ぎ混じりの威勢と共に飛んでくる氷の刃は、だんだんと精彩を欠いてきている。無理して攻撃の精度を保つことで防禦を疎かにしてはならないという、正しかろう判断をしているとすれば流石だが、しかし、ならば俺は軽くそれを往なすだけだ。そして往なすのが楽になった以上、攻撃への意識を高めることが出来る。それ、コイツはどうだ!
しかし、息も絶え絶えな陸離は、それでも何とか避けてしまうのであった。うむ、少々拙いな。陸離の体力の無さを嘲ったこの俺であるが、逆に、こちらは魔力が涸渇しつつあった。充分睡眠と食事をとって備えたのだが、如何せん、光線魔術は非常に燃費が悪い。というか、そこが良かったら皆使うだろう。だからこそ、光線魔術は殆ど実戦で見られないものであり、俺のような物好きしか修めず、つまり陸離が今日肝を潰すことになったのだ。
さて、俺達の目的は、陸離を破ることではない、火薬庫を爆破し、引いてはこの都市を落とすことに有るのだ。故に、出来ることであれば魔力を温存したかった。そこで俺は、陸離が堪え切れずに顚倒した瞬間にでも、直接的に殴り掛かってやろうという色気を出しはじめていたのだ。
右手の形を、指先から殺意を放つ時と同じようにする。そしてそのまま陸離へ向ける。万全な陸離であれば、俺がその実魔力を全く籠めていないことを容易に見抜く筈であるが、しかし今の奴は半ば前後不覚であり、果たして大袈裟に回避行動を取ってくれた。
そして、躓いた。
一気に近づく。甃の上でスライムのように無様踠いている陸離へ、懐から抜いたナイフを突き立てるべく、
悪寒がした。
慌てて飛び退くと、俺の居た地点を、一条の光線が貫いていった。青白い光の筋は空気を焼き、俺の鼻まで妙な臭いを届けてくる。悪寒の原因を理解した俺が、すなわちその、魔力が充塡された気配を感じた方へ振り向くと、居た。
「ブロック君、無事だったかしら。」
色黒の、額に緑の宝石を着けた女が、
「無事、なようね。良かったわ。」
二人。
〝鏡花〟か!
「さて、そこの君。光線魔術を実戦段階にまで仕上げるとは、お見事。」
「珍しい技。私達の追随者でしょうか、ね。やっぱり。」
ああ、そうだよ。そうだ、ガキの頃、アンタらの国がもっとまともだった頃に聞かされた英雄譚に、俺はすっかりやられて、それ以来、
「さあ、若者よ、」
並んで居た鏡花が、跳ねるように二手へ分かれ、そして駈けた。
「見せてくれるかしら、あなたの生涯を投じた作品を、」
そうして俺は挟み撃たれている。右の鏡花と、左の鏡花が、何度も俺自身が繰り返し作った、あの手の形を作って、俺の方へ向け、俺が、腰を落とすようにして退くと、目の前を二条の青白い光が交差して、それはまるで、傾いだ十字架のようで、




