29
29 モル=サルヴェイ
襲撃者は、奇妙な色合いの、鱒の鱗のように妖しい照り返しを見せる兜を被った者共であった。その各〻の手には、松明や火炎瓶だのという火器を携えている。火器とは言っても、それらの放つ魔導の気配から、ただの原始的な武器でないことが窺えた。絶対に、火薬庫を攻撃させるわけには行かない。
まだ距離は有るが、しかし数が多い。二十は居るのではなかろうか。ならば、魔力の消耗を抑えつつ凌がねばなるまい。
「止まれ、容赦は出来ぬぞ、」
一応そう叫ぶが、どうせ止まりはしないだろうと言うことで、私は既に右の手の上に水球を拵えていた。水球の、人の頭よりも三回りくらいの大きさは、それがそう言う用途に向けた存在であるからだ。
魔導的な推進力を与えて投射した水球は、宙で軟泥魔獣のように一瞬ひしゃげながらも、狙い通り、一番手前で駈け込んでくる男の頭部へ命中した。これで、男は頭をとっぷりと水で覆われて呼吸を失い、無様にのたうち回った後に絶命する、筈であった。
思わず顔を顰める。私の放った水球は、見事に男の頭部を打ち据えたのだが、まるで、その、奇妙な兜に切り裂かれるようにして爆ぜ、まさしく霧散してしまったのだ。
思い出したぞ、その兜の妙な色合い、ウェルフ鋼か! 闇の魔力を弾く聖なる精鋼、と売り出された代物であったはずだが、なるほど、そこまでいい加減な文句でもなかったか。つまり、水の形状を縛める私の〝闇〟の魔力が弾き飛ばされ、力を失った水が虚しく散ると言う、
「良し、手前等!」
私の水を浴びた男が、兜の中に多少の水が入ったかやりづらそうに、しかし意気高く叫び上げる。残りの無法者達が挙げる呼応をわざわざ裂くようにして、
「蝦蟇の野郎も形なしだ、一気に片づけるぞ!」
再び、泥水のような喊声が挙がり、無法者共の姿が近く、大きくなってくる。ああ、何と言うことだ。
何と言うことなのだろう。私は感銘を受けた。ああなんと、彼らは素晴らしいのだろう。奴らの企図を成就させれば、奴ら自身も大爆発に巻き込まれて跡形もなくなると言うのに、何だその意気は、昂揚は、戦意は
良いだろう、その素晴らしい精神に報いてやる。
再び、右手に水球を形成させた。
「は、何度やろうとも、」
その、五月蝿い口へ目掛けて、再び水球を発射する。しかし、今度は先ほどのような緩やかな軌道ではない。稲妻の如く、真っ直ぐ、そして須臾の内に、その頭部へ到達し、そして、そのまま持っていった。
しん、と静まった。戦いた彼らが、足と口の動きを止めたからである。皮肉なものだ。先ほどまではあの男の口から放たれる言葉によって戦意を昂揚させていた者共が、今や、同じ男が首から血を滾々と噴き出させていることに気を潰され、この世が終わるかのような蒼白な顔を並べているのだから。
「さあ、どうした、」
右手で空を大袈裟に薙ぎ払う。
「覚悟を決めたまえ。諸君等は、〝首無し騎士〟のサルヴェイを敵に回したのだ。」
そのまま、右手の上に水球を拵える。奴らが、足を練るように引き下がる。
「頭の重みを煩わしがっているのは誰かな、前に出るが良い。」




