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第四火薬庫  作者: 敗綱 喑嘩
第三章
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26

26 ヘイロ=ブロック

 この箱柳通りを護るべく、何にでも使ってくれと貸し出された四人の兵が、私の周りでふためいている。

「ブロック様、一体何事で、」

「知るものか。」必死に自分の動揺を隠す。「とにかく、我々の任務は、この通りを死守し、つまり誰も通さないと言うことだ。どこで何が爆発しようが、取り敢えずは放っておけ!」

 そう、我らが背負う第四火薬庫、あれさえ無事ならばひとまずは何でもよい! それ以外のことは、〝火〟や〝闇〟の連中、そしてヤキロ殿達に任せておけばいいのだ。

 そう思いながら前を見据えていると、何やら、数人の男が通りを真っ直ぐ、こちらへ駆け込んでくるのが見えた。一瞬、爆発の連続に混乱した通りの見張り兵が愚かなことに持ち場を抛棄してこちらへ戻ってきたのかとも思ったが、違う、あんな装具は配備していない筈だ!

 その、奇妙な兜を被った、全体的にも奇妙ないでたちの連中へ一応怒鳴りかける。

「止まれ! ここは通行禁止だ、それ以上踏み込めば命の保証はせんぞ!」

 その間に、私は〝陸離〟たる、という異名を頂くこととなった魔術、幻影術を行使し、つまり光の道筋を捩じ曲げ、私の虚像が私から遥か離れた場所に見えるよう仕向けた。

 連中から、火球、魔球、矢、勝手なものが勝手に飛んで来、周りの兵達は自らの身を護るのが精一杯のようだった。しかし私は全く別だ。私を目標にしているのであろう攻撃は、全て、私の虚像へ狙いを定められており、虚しく外れ、故にこちらはその隙に冷静に狙いを定めることが出来る。眩惑術を展開しながらということで完全とは言いがたいが、とにかく人を仕留めるには充分な威力と重量の、巨大な錐のような氷の刃を右手の上に形成させ、放つ。魔導によって齎される、底部分の爆発的な昇華により推進力を得た氷刃は、私よって歪められた空間を横切る以上、目標の目からは軌道が全く摑めぬ筈であり、果たして、奴らの内の一人の鳩尾の辺りへ突き刺さった。何かしらの鎧を着込んでいたか、速贄の如く貫通するには至らなかったが、しかしそれでも超重量の激突だ、血を吐き、滑稽にひしゃげた体躯が吹き飛んでいく。さて、残るは三人。距離は充分離れている。奴らからの攻撃を受けた兵達が悲鳴を上げて斃れていくが、我らの任務を遂行すべく、敵を確実に仕留めるのが先だ。二発目を一人へ放つ。少々狙いが乱れたが、それでも右の腿の辺りへ命中し、そのまま脚を吹き飛ばす。充分だ。三発目。肩へ命中、腰から上がおかしな方向へひん曲がる。良し。四発目。これまでで一番澄まされた、この四枚目の刃は、吸い込まれるように最後の一人の首許へ、

 ……な、外れた!? ……と言うよりは、禦がれた、のか? ええい、まだ距離は有る、もう一度、

 何が起こったものか今度は見届けてやると目を見張った。眩惑術の都合により捩れた空間の向こうの出来事であるので正確には捉えきれないが、なるほど、あの男、飛翔してきた氷塊へ往なすように籠手を叩き付け、軌道を逸らしているようだ。そうして二度目の氷撃は、襲撃者後方の空を虚しく裂かされ、背の高い住居の窓へ突き刺さって夢獣の鳴き声のような音色を上げる。むう、まあ、いい。このまま近寄られてしまいそうだが、所詮はごろつき一人。私の手に掛かれば、取るに足らぬ、

 突然、血の気が引いた。その原因を理解する前に、脚が勝手に力を籠め、私の身を通りの反対側へ運ぶ。次の刹那、私の居た場所を、一条の光線が貫いていった。正確には、光線そのものではなく光線が空気を焼いた色が見えるわけだが、とにかく、正確無比な攻撃が飛んできたのだ。眩惑術の分厚い帷がある以上は不可能である筈の、真っ当な狙いの攻撃が、

 少しの後に理窟を理解し、思わず眉を顰める。光線魔術か! 我が眩惑術は、光の道筋を自然のものから歪めることで、自らの姿を事実とは異なる場所へ投映させるわけだが、これはすなわち私の体から敵へ本来真っ直ぐ飛ぶべき乱反射光を弄びつつも、しかし、最終的な命運を変えているわけではないのだ。……ああ、だから、つまり、いくら道中を捩じ曲げられようとも、私から放射される光は、結局然るべき目へ届くのだ(そうでなくば、私の偽りの姿が見えなくなるだろう)。そして、光というものは、反射や屈折しか含まない系であれば逆走することが出来る。……そう、私の敵が私の虚像へ放った光線は、本来私の虚像を見せる為である歪みの企図を、逆の順番で営々と施されることになり、ああ、つまり、愚かにも虚像を真っ直ぐ狙って放たれた筈の光線は、しかし歪みの完璧な采配によって捩曲がり、私の身を正確に貫くことになるのだ! 光の性質によって多少屈折の起こり具合は変わるから、細かいことを言えば多少はズレるのかもしれないが、しかし、焼き貫かれるのが右の肺臓から左の肺臓へ変わったからって何になると言うのだ。

 文字通り光速度で飛んでくる光線系の魔術には、しかし相応の弱点が有り、魔力の気配があからさま過ぎで、発射されることを事前に察知出来てしまうのだった。だから、そう、事前に注意しておけば防禦や回避行動を取ることは可能で、特に私のように光の魔導へ精通している場合、最早注意すらしていなくともなにとなくその気配を察知することが出来る。だから、そう、初撃は何とか先ほどのように躱すことが出来、またその後の光の一撃も今、こうして避けることが出来た。そして更に、その二度目の回避を行いながら苦し紛れに放った氷の一撃を、大真面目に対処してもらうことに成功したのである。その成果として時間を一瞬稼いだ私は、尋常に立ち、いつしか充分近くなったその男とまともに相対する恰好を作ることが出来たのだった。

 互いの上がった息が遠巻きに交錯する。例の奇妙な兜の隙間から見える、疲労の向こうに熱の色を湛えたその瞳へ私はつい問いかけたくなった。その瞳の力強さと、この男の実力に駆られたのだ。

「名乗れ、何者だ。」

「ああ? お前の味方に見えるか?」

「そう言う意味ではない、貴様を戦士として認めたい。名乗れ。」

 頬骨の張ったその男は、不敵に、そして好戦性を(あらわ)にするかのように、右の口角を釣り上げた。

「ギランド=サーンだ、憶えておけ。そして道中良く思いだし、死出の旅路の無聊を慰めろ。」

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