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21 モズノ=カナカ
ネルファンの首都に来て驚いたのは、人だ! 人の数! 混んでいる通りに一度入ってしまうと、桶で洗われるヴァナタ芋のようにぎっしり人が詰まり、胸の辺りが犇々と締め付けられて息をするにも難儀する。
今日の用事を済ませ、ほうぼうの体で混雑を抜け、ちょっとした食事屋へ転がり込む。がっくり座り込む私を、クリューが笑った。
「おいおい、いつからそんなに貧弱になったんだ?」
つい、上目遣いのまま睨みつける。
「アンタは良いでしょうが、でもねえ、こっちは人に揉まれて揉まれて、というかそもそも女なのよ。」
「まあまあ、誰のお陰で荷物を抱えんで済むと思ってんだ?」
そう言いながら、クリューは店の入り口でごそごそと繫ぎ止める作業をしており、
「ねえ、」
「うん?」
私に声を掛けられても手を止めなかった。
「あそこに居るのさあ、」
「ちょっと待てって、良し、」
ようやく私の指し示す方を見たクリューは、ちょっと目を大きくして、
「おや、成る程な。」
彼が掬うように左手を振り上げるのに従って、私も一緒に向かった。
「やあ、しばらく振り、」
このクリューの呼びかけに、カウンターに掛けて何かの肉料理をつまんでいた、この国に来てから初めて対面したチェルノ隊長の情報源の一人、ジェイン氏が素直に振り返る。相変わらず、その落ち着きように似合わぬ若々しい面立ちだ。
「おっと、」彼は、少しきょろきょろとして、「親父、二階の席を借りるぞ。」
三人で改めて席に着くと、彼が、ちょっと魔力を振るうような手の仕草を見せた。クリューはきょとんとしていたが、わたしには何が起こったのかが分かる。
「へえ、遮音術、」
「ほお、」ジェイン氏が、濃い紫色の髪の下にある若々しい顔の頬の辺りを親指でなぞりながら、表情で私への感心を示した。「目が高いな。」
「私も、そういう専門だもの。」と、右手の杖を揺さぶって見せる。
「ああ、そうだったな。」
ジェイン氏がフォークで肉を一片突き刺し、口へ運んだ。
「して、その後はどうかね。」
「ええっと、実は、まだ都合がつかない物品が有るの。」
「なんだい、」
「ウェルフ鋼なんだけれども、」
「ああ、あれか。」
ジェイン氏が嚥下した。痩せているせいで目立っている大きな喉仏がごくりと動く。
「この国とウェルフとの国交は途絶えたからなあ。そりゃ、手に入らんだろうよ。」
「何とかならないかしら。」
「うーん、ネルファンの中で手に入れてこられるとしたら、ブイーノナン商会とかだろうな。それでも、船で持ってくるなんて話になったら絶対に間に合わんから、倉庫に有るのを願うしかない。」
クリューが膝を叩いた。
「じゃあ、すぐにでも掛け合った方が良さそうだな、その、ブイ何とかによ。」
「ブイーノナンだ。何なら、俺の方で動いておこうか? よく分からん異邦人、つまりお前らにいきなり来られるよりは、俺の方が自然だろう。」
「おお、それは助かる、」
ん?
「ちょっと待って、その、ブイーなんとかって、」
「ブイーノナンだと言っているだろう。」
「とにかくそれって、ひょっとして、」
「ああ、十三騎士のブイーノナンのことだ、〝大震〟だな。アイツを領袖とする商会だが、まあ、まさか売り買いの一々までに目を光らせまいよ。気にするな。」
「そう、なら良いけれども、」
ここで次の一口を楽しもうとしたジェイン氏を、クリューが邪魔した。
「ああ、十三騎士って聞いて思い出したが、アンタに助言してもらったアレどうなったろうかなあ、結構頑張ったんだが、」
「おお、アレか。まあ、中々上手く行っているようだよ。」




