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01 ケイズ=モーレ
我らがヒューイン国の趨勢を左右する、という触れ込みで呼び集められたこの緊急的軍議であるが、発起人にして我らがボスであるチェルノ隊長がまだ来ないので、馬蹄型の大きな卓を挟んでいる四人は、私自身を含め、大層退屈そうにしていた。丁度、私の脇の席を占めている同僚がとうとう大きな欠伸をし始めたので、その隙を衝くかのように、小声で話しかけてみる。
「想像がつくかい、君には。」
ちょっと眉を持ち上げ、欠伸を二三度咀嚼するようにし、そうしてからようやく彼は返して来、
「何がだい。」
「隊長の、輝かしき頭に今度浮かんだものが何か、って話さ。」
ふっ、と少し笑ってから、
「知らん知らん。良くも悪くも、あの方の思いつくことは毎度毎度想像の外だからなあ。」
まあ、それもそうだな。チェルノ隊長は、我々、ヒューイン国軍隠密工作部隊の一応は幹部である筈の者共よりも、遥かに潤沢で瑞々しい情報源を確保しているというのが専らの評判で、それを遺憾なく活かした、我々では及ぶべくも無い、とんでもない作戦行動をいつも立案してくるのであった。まあ、残念ながらあまりにもとんでもないので、多くは却下となり、残りは大幅な修正が加えられるのが常なのであるが。部下の意見を素直に聞き入れて幾らでも折れるという美徳は、チェルノ隊長の有能さを明らかに向上させていた。
ガチャン、ガチャガチャ!
おや、隊長が来たようだ。ここのドアは最近建て付けが悪く、コツを摑まないと外から開くのに少々難儀するのであった。そしていつまでも隊長がコツを摑まないので、中に居る者が丁度今やっているように手助けするのである。
「いやはや済まんな、遅くなった。」
私の向かい正面の席にいつも座る四つ年下の幹部が居眠りを始めない内の到着ということは、最近の隊長にしては上出来だろう。そのまま隊長はぐるりと回って馬蹄の頂点の席に着かれ、 ……いや、着かないな。どうやら立ったままで話し始めるおつもりらしい、余程興奮しているのだろう。事実、禿げ上がった頭と、そしてそれを取り戻すように蓄えられた豊かな白髭の向こうに半ば隠れている顔面は、それぞれ僅かながら紅潮していた。
「諸君! 第四火薬庫を爆破するぞ!」
「はあ!?」
隊長へ集まっていた、それぞれ皿のようになった瞳達からの視線が、うってかわって私の方へ向いてくる。しまった、声に出ていたか。
「いやはや、まあ、」居眠りをしなかった彼が口を開く。「モーレ殿が叫んでしまうのも分かりますよ。というか、ここが軍議場でなければ誰しもが叫んでいたでしょう。それくらいの驚歎が我々には走りました。」
彼の苦笑いが伝播する中、彼が続ける。
「というわけです隊長殿、我々は耳を――さもなくばあなたの正気を――疑っています。」
「いつもどおり、と言うわけかな。」
流石にこの手の反響を予測してはいたらしく、隊長は寧ろ楽しげであった。
「いえいえ、とんでもないことです。いつものそれよりも遥かに強烈だ(室内にまた苦い笑いが沸く)。隊長殿、その突拍子もない作戦、というよりはそれをぶち上げることとなった経緯をまずお聞かせ下さい。そこが頼りなくては、作戦そのものも議論する意味が無くなりますので。」
「ふむ!」前につんのめっていた隊長が、胸を張った。「では話そうではないかね、まず、」
「ああ、その前に隊長殿、」
この追撃は予測していなかったらしく、チェルノ隊長の、芋虫のように太い白眉が持ち上がる。
「おや、今度は何かね。」
正面の彼は、手を走らせながら、
「まずは、お座り下さい。」
きょろ、きょろ、と漫ろに室内を見渡すと、隊長殿はどすんと腰を下ろした。