18
18 モル=サルヴェイ
「おい、少しは掃除をしたらどうだ、モイズリー、」
「嫌よ、時間の勿体ない、」
「ならば掃除人を雇え、お前の生活なら使い道に困るくらいの給金が出ている筈だろう。」
「ああ、もう、サルヴェイ卿、説教しに来たのならば帰ってくれる?」
まだ女らしい若さの幾許かが何とか残る顔の上で伸び散らかした黒髪を搔き毟りながら、ぞっとするほど埃の積もった何か――あまりの雑然ぶりに正体の判別が困難なのだ――へ平然と腰を下ろしながら、手の動きで、私にもどこかへ座るように勧めてくるターテント=モイズリーであるが、ええい、ふざけるな、
不思議そうにする〝闇〟の騎士に構わず、立ったまま私は話しはじめる。
「本来、こんな場所に居るのは一刻も御免だ。だから本題を話すぞ。モイズリー、ウボス法をどう思っている、」
無礼千万なことに欠伸を図ろうとしていたモイズリーであったが、この言葉を聞いてそれを飲み込み、魔術師然とした、怜悧な表情を一瞬で現出させた。
「ああ、あれ、」
そう言って立ち上がり、ドラゴンの墓所をひっくり返したように雑然で湿っぽく、薄暗い、そして足の踏み場も無い部屋の中を器用に行きつ戻りつしながらしばらく考えを整理していたモイズリーを、私は待ち兼ねて、
「私はこう言いに来たのだ、モイズリー、ウボス法への拒否権行使に票を投じてくれ。」
「つまり、アレを蹴れ、と、」
「そうだ、」
「ふむ、ふむ、」
〝屠殺〟のモイズリーは、突然こちらへ、その黒い瞳を真剣に向け、
「協力してもいい。でも、条件が有るわ。」
「む、」
そう来たか。この手の展開は考えていなかったな、
「なんだ、」
「二つ有るの。」
「取り敢えず言ってみろ。」
目一杯緊張して備えたこちらへ、しかし、モイズリーはにいっと笑い、
「一つ、二度と私の生活に口を出さないこと。二つ、今から一杯私に御馳走すること。いい?」
思わず溜め息が出た。
「全く、なんて奴だ、」
「良いじゃないの、丁度今夜暇だったのだもの。」
「まあ、お前と話す機会はあまり無かったし、私も時間は一応有るから酒に付き合うのは吝かでない。しかし、とにかく良いのだな、ウボス法の拒否へ賛同してくれるということで、」
「ええ、」
ところで、何故だ、と問おうとした私であったが、勝ち気な表情を作った彼女の後ろを、家守だか蜚蠊だかが通り過ぎたので、
「おい、出るぞ。続きの話は他所でさせたまえ。」
「あら、失礼な騎士様ねえ。」