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17 シントン=マーブ
豪奢な、血のように深紅の絨毯。王冠よりも目映い、絢爛なシャンデリア。今にも動き出しそうな怒りを帯びている、雄々しい魔牛の首から先だけの剝製。金文字装丁の書物がぎっしり詰まった、頑丈そうな、葉脈のように精緻な彫り物の施された書棚。とにかく部屋の主に金が有り余っていることを執拗に説明してくる部屋であった。
これまた威容を放つ、がっしりとしたアンティーク椅子に座る、〝大震〟のファゴラトゥスル=ブイーノナンは、侮蔑気味の笑いを、その多く皺を刻む顔に隠さなかった。
「しかし、君は、ふふ、全くそういう恰好が似合わないなあ。」
「放っておけ。」
今の儂は、それなりの礼服を珍しく着ている。
「いやはや、自分で言うのもなんだが、我が家は間違いなく『邸宅』と称されるべきレヴェルだろう。ならば、――別に私は気にせんがねえ――そのような恰好が相応しいということになる。そういう作法を遵守しようという精神は素晴らしいね。」
濃い茶色の髪を長く伸ばしている〝大震〟は、事業家という一面の通りに、実に瀟洒な動作で茶を啜るのであった。こちらといえば、無様、注ぐミルクを零したというのに。
「それで、だ。何の御用かね、〝凍土〟よ。」
「儂は、腹芸や駆け引きは苦手だ、
「だろうね。」
「黙って聞け。だから単刀直入に言うぞ。ブイーノナンよ、経済改革法案を拒否するのに協力してくれ。」
「ああ、ウボス法、」〝大震〟はまた一口啜った。「〝凍土〟よ、私が交易で少なくない益を得ているのは知っているな。」
「ああ、」
「で、あんな馬鹿げた法案を通されたら、どうなると思う、」
「知るものか、」
「まあ、そうかもしれんな。しかしちょっと考えてみてくれ。商売にあれだけ馬鹿げた強税を掛けられては、売れるものも売れなくなってしまう。また、あんな徴用同然の手段で物資を持ち込まれては、需要が満たされてしまい、やはり国内の客が居なくなってしまって困るのだ。つまり、商売人ブイーノナンとしては、ウボス法は通ってもらうわけに行かない。」
「すると、」
「ああ、」〝大震〟が立ち上がった。その体躯は未だ老齢に凋みきらず、むしろ立派である。「恐らく君達と同じような正義の理由で拒否権を行使したいとも思ってもいたのだが、しかしそれが自らにも益を齎すということで気が引けていたのだ。だが、そうして真っ向から頼まれれば、忌憚も和らぐというもの。感謝するぞ、マーブよ。」
奴から出された右手を、立ち上がって握った。つい力を入れ過ぎて、〝大震〟の顔を歪ませてしまう。