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13 ジェイン=ヴァル
俺はわざわざ第三国であるヴェル共和国まで赴き、あの男を待っていた。船旅の疲れがたっぷり残っているが、まあ、今日は話すだけ、の筈だ。大丈夫だろう。
海へ面す垣へ身を前向きに凭れさせ、遠くを行き交う船々を眺める。三年前に死なれた愛猫の瞳の様に青く深い色を示す水面の上を、刃のような形の船が辷り続けている。刃に裂かれた水面は、白い泡からなる血飛沫を飛ばし、にも拘わらずすぐさま再生し、死と生のプールである海洋の本質を象徴するのだ。
わざとだろう。石を、自然な歩行の足の動きで蹴飛ばしてしまったような音が鳴った。海を眺めたまま身構えると、隣に男が立つ。
「ここへは物見へ?」
符牒だ。そちらを見ぬまま、然るべく返す。
「鷗の糞を採りに、ね。」
何かを確かめるような間があった。その後、男は陸の方へ振り返り、
「ふむ、誰もおらんな。」
「この時間ですからね。」
「では、話そうではないか。宜しく頼むぞ、ジェイン君。」
「ええ、モーレ殿、」
初めて会うこの男、チェルノのおっさんの部下がどういう顔をしているのか気にならないことも無かったが、こちらの顔を見せるのが何と無く嫌で――どうせ髪は晒しているのによ、職業病みたいなものだよなあ――、このまま続けることにした。
「あなたがたにお伝えしておきたいことは山ほどあります。まずは、ネルファンの国王が狙っている経済改革と、コルチェフによる他の十三騎士、トゥユリコやその他への働きかけの結果について、」