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11 モズノ=カナカ
狭い部屋の中、三人で座り話しあっていた。
「では、我らが宿敵、十三騎士の内の水に傾倒する四人についておさらいするわよ。まずは、〝蝦蟇〟こと、サルヴェイね。〝闇〟の魔導を補助的に使うこの男は、停止や束縛を象徴するその属性の特徴を生かし、水を塊状にして操作するのを得意としている。相手の頭に水の球を被せてしまい、溺れさせてしまうのが象徴的な技ね。」
「どうにも恐ろしいが、何か対抗策は有るのか。」とクリュー。
「まあ、有るとは思う。もうちょっと調べたり実験したりしてみないといけないけれども、ようは、呼吸が確保出来ればいいのだもの。で、次が〝濃霧〟のトゥユリコ、視界が全く無くなるほどに濃い霧を起こして翻弄を試みるわ。ネルファンが今のように大きな力を持つことになったきっかけのひとつであるドルヴ戦役でも、このトゥユリコが発生させた大規模な霧が、あの国の勝利を齎したと言うことになっているわね。」
「へえ、つまりそれで、トゥユリコは十三騎士へ取り立てられたのか。」
「いえ、それは全く違うわ、クリュー。〝濃霧〟は、その活躍よりもずっと前から十三騎士であったの。」
「うん? すると、大分古参になってしまうけれどもな、」
「ええ、最古参でしょうね。ああ見えて六十歳を超えている筈だし、」
「六十!? 魔術師ってのは恐ろしいねえ、全く、」
「私は見た目通りよ?」
「そんなことよりも、」とギランド。「〝濃霧〟をどうにかする術はあるのか?」
「ええっと、ややこしいのだけれども、まず、正直霧に関しては攻略法が有る。私の手に掛かれば楽勝よ。」
「そりゃ本当か? あまりに頼もし過ぎて嘘臭いが、」
「殆ど客観的な事実よ。私は、トゥユリコの霧をどうにでもすることが出来る。でも、今の私の力では、トゥユリコに全く敵わない。」
「うん?」
「つまりね、クリュー、今でこそ二つ名になるくらい、トゥユリコの霧魔術やその他天候系の魔術は高名だけれども、あの女の身を立てたのはそんなものじゃないのよ。数多の血を流させ、彼女を英雄とさせた本来の魔術はもっともっと恐ろしい。これに関しては頭をひねって、どう戦ったものか考えないといけない。」
「糸口は?」と、クリュー。
「無くもない。けれども、やっぱりまだまだ調べたりすることが必要ね。どのみち、霧への対処が可能な私が、トゥユリコとは相対すべきなのでしょうけれども。
で、三人目が〝凍土〟のマーブ。本来、物を直接凍らせるのはかなり魔力量の消費が多くて実用的でない筈なのだけれども、マーブは、〝地〟の属性の魔力を上手く使うことで、地面の持つ、魔力への反撥を無くして、」
「何を言っているのか今一よく分からないんだが、」
「ああ、御免なさいギランド。正直私も原理は全然分かっていないのよ、専門外だしね。とにかく事実としては、マーブは本来到底実現不能である筈の地面の大規模凍結を易々とやってのけ、襲いかかろうとする者はすっ転んだりして話にならなくなるのだわ。」
「そこで俺の出番ってわけだ!」とクリューが膝を叩く。
「ええ、お願いするわよ。マーブは身体能力も達者だから、簡単には行かない筈、くれぐれも用心してね。
で、最後が〝陸離たる〟ブロック。水だけでなく〝光〟の属性にも通じるこの男は、大気の水分や温度を弄ったり、あるいは氷の微小な飛礫を浮かせたりすることで光の進路を弄り、錯覚を起こさせるわ。術者本人が光の進路の捩じ曲げ具合を考えるというわけではなく、自動的に律されるみたいね。」
「ええっと、光の進路と、錯覚というのは何の関係が有るんだ?」
「ギランド、重ね重ねで情けないのだけれども、私もよく分かっていないわ。ええっと、虫眼鏡で何かを見ると大きくなるじゃない? 下手すると引っくり返ったりも。あれらも、硝子で光の進路が曲がった成果らしいんだけれども、
とにかく、臨戦態勢のブロックと相対してしまえば、目に見えるものの位置が殆ど信用出来なくなるわ。錯覚術を使われている時には、チカチカしたもの――〝陸離たる〟の由来かしらね――が宙に浮いて見えるらしいから、何かをされていることまでは分かる筈だけれどもね。」
「ところでだ、」とクリュー。「こうやって十三騎士様各〻への対策を練るのは良いがよ、当日実際はどうするんだ。」
「どういう意味?」
「だからよ、モズノ、例えばお前は〝濃霧〟をどうにかすると意気込むだろ、」
「ええ、」
「で、水牛の日当日、どうやって濃霧と対峙するんだ。例えば、蝦蟇あたりと出会して一巻の終わりってことも、」
「ええっと、その辺は、隊長殿を介して情報が入ってくるのを祈るしかないわね。十三騎士が実際にどういうふうに護衛に着くのか、とかの、」
「頼りないねえ、」
「頼りなかろうがあろうが、これしかないのよ、真っ向から挑んで敵う相手じゃないのだから。あなたはまずとにかく、凍土を確実に留める方法を考え、そして、訓練を重ねて。」
「ん、ああ、そこは任せてくれよ。訓練なんて、楽しみで仕方がないんだ。」
クリューは得意げにふんぞり返った。