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00 ジェイン=ヴァル
さて、どうしたものかな。この度摑んだこの、大袈裟でなくこの世を揺るがしかねない情報、それを書き留めた紙切れを、しかしそんなものを衆人環境で見せびらかすわけにもいかないので、せめて俺はそれを頭の中でくるくる弄んでいる。ボロボロの、誰かがたまたま拾っても精々小さな軽蔑を塗り付けてから放り投げるだけであろう粗末な紙片に敢えて書き込まれた、ちょっとした暗号には、しかし、俺がこれまでの人生で得た中で最も重大であるものが確かに潜んでいるのだ。俺の想像上の手の動きによって、ひら、ひら、ひらりと閃き、その度にフケか何かのような屑を吐き出し散らすその想像上の紙切れは、
――った!
頭頂に軽い、しかし鈍い痛みを覚え、恨めしげに見上げると、俺が背負っている建屋の三階の窓から、痴話喧嘩と思しき声がぽろぽろ転げ落ちてきていた。面白げにその窓を見上げる、通りを行き交う連中に逆らうように、俺一人は足許を検めると、ああ、成る程な、女っぽい櫛が転がっている。こいつが、窓から転げて俺の頭を打ち、そして空想上の紙片をうっかり手放させ、そしてそれを風に攫わせたのだろう。
そんなわけで思索を見失った俺は、勝手に座り込んでいた軒先の小樽から立ち上がり、通りすがる魔術師の一群れを意味もなく一瞥してから歩き始めたのだった。そうしながら何となく懐の、想像上でない紙片を確かめ、指先を白く汚す。
まあ、取り敢えず、あの髭のおっさんには伝えておくべきだろうよ。