過去
今は誰にでも明るく太陽と表現してもいいほどの蒼。そんか彼女だが、ここまで笑顔が振る舞えるようになったのは一つのきっかけとなる事件があった。
それは冬のある日、蒼は風邪を引いていたがそれでも傍にいるのを止めなかった。シスターは大人しく寝ているよう言うが嫌だの一点張りで離れようとしなかった。そんな中今度は俺が風邪を引いて完全に寝込んでしまった。蒼の風邪が移ったみたいで熱が39℃高く毎日のようにうなされていた。あの時蒼は泣きながら謝っていた
「ごめんなさい、わたしがとぼそくんをくるしめたんだ。ごめんなさい、ごめんなさい...」
毎日のようにに謝り続けていた蒼
そんななか俺は
「だいじょうぶだよ、ぼくがわるいきんをたいじするからあおいちゃんはげんきになったでしょ?」
もちろん毎日のように謝られてうんざりしていたからではない。この子の悲しい顔はもう見たくなかったのだ。そして涙でぐしゃぐしゃになった蒼の頭をずっと撫でていた。
そして一週間が過ぎても俺の風邪は治らなかった。シスターは薬を出してくれたがそんなものじゃ現状を維持するだけで良くなりはしなかった。新しい薬が無くなり買いに行こうにも外は何十年ぶりの大雪で風も強く吹雪いて大人でも外に出られないほどだったらしくシスターは毎日心配した顔で汗を拭いてくれたり額に乗せたタオルを交換してくれた。
そんな中孤児院のある男の子は心配していたのだろう
「このままあいつしんじゃうのかな...」
そりゃ一週間も寝込みシスターの顔にも焦りが出ていたからそう思われても仕方ないかもしれない。
しかしその一言に対して蒼はその子に対して怒鳴った。
「とぼそくんがしぬはずない、かってなこといわないでよ!!」
周りは唖然としていた。あの蒼が今まで見たことのないような表情でシスターさえもが驚いていた。まさしく鶴の一声だった。
その男の子はさすがに泣き出していた。蒼も心の奥底ではその子が心配しているのは分かっていたらしくまた泣いていた。だが、それでも泣きながらシスターに向かって何とか薬を買ってきてと懇願して、そんな蒼の姿にシスターは心動かされたらしく危険覚悟で薬を買いに行ってくれた。
そんなこんなで俺は元気になり、シスターにより別室で寝かさせられた蒼のとこにお礼をしに行った。そして蒼を起こすと寝起きとは思えないほど俊敏な動きで抱きついてきた。その時の蒼は満面な笑みと大粒の涙を零していた。それが初めて見た蒼の笑顔だった。
それからというものの、蒼は次第に笑顔が増え他の子達とも打ち解けるようになっていった。だけどやっぱり俺の傍からなかなか離れなかった。
そんな二人も高校生になる歳。お金と家の話を聞いた俺は蒼も連れていけないかとシスターに訊ねたのたがお金も充分で孤児院からもそんなに遠くないことから許可がおりた。それを伝えた蒼の顔は今でも忘れられない。そして1年が過ぎ今では高校二年生だ。
こうやって毎日のように二人で朝食を食べ学校に通える充実した毎日を送っている。
「枢くん、何ニヤニヤしてるの?」
「ん?蒼の料理の腕前は流石だなあって」
「あはは、何言ってるの。コーヒーにトーストにベーコンエッグって大抵の家庭で出てくるって」
笑いながらこんな会話が出来るのもあの事があってだと思うと蒼には感謝してもしきれない。こんな日常だが、いやこんな日常だからこそ大切にして行きたいと思う、そんな朝だった。