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第1話‐4 素人はやはり壁にぶち当たる

 猫耳族の集落を最初に訪れてから、一ヶ月が過ぎた。

 その間何をしていたのかといえば、もちろん水路作りである。

 要は水路さえ引いてしまえばかなり利便性も上がるし、作業効率も上がって余裕もできていい事づくめ!なんて楽観的に考えていたのだが。


 「もう少し掘ったほうがよくないか?」

 「いやでも溜池だからなぁ。溜め過ぎても水は悪くなるだろ」

 「ふむ。ではまずはこの程度で様子見とするか」

 「ああ。じゃあ俺は一旦城に戻って例の件を提案してくるけど、ルジは木材の加工をできるだけ進めておいてくれ」

 「うむ、心得た」

 

 とまあ、思いついたはいいのだが、そこは俺もまったくの素人なわけで。単純にこれまで水を汲んでいた泉から水を引くだけでは色々と問題があったのだ。

 まず、水を溜めるための貯水池を作ろうと思ったのだが、排水の問題にぶち当たった。溜め過ぎても結局排水されないのだから、水質は徐々に下がっていく。生活用水も兼ねているためこの解決は急務であった。

 しかしこれをどうにかしようと思うと最終的に遥か遠くの川まで水路を引かねばならず、人員的にも期間的にも無理があり過ぎた。その為、苦肉の策ではあったがまずは貯水池まで水を引き、三日おきに泉に設置した水門(といっても木の蓋だが)を開閉することで一定量を確保する方向で進める事にする。

 次の問題は肝心の水路で、とりあえず集落まで延々と水路を掘ったのだが、ただ深い溝を掘っただけのこの構造では落ち葉などのゴミが流されてきてしまい、詰まりが発生すると予想された。


 「とりあえず側溝みたいに蓋しちゃえば多少はクリアできると思うんだけど…やっぱりこういうのは専門家が必要だな」


 もはや通勤ルートと化した城への道を歩きながら、独り言を呟く。どうせ異世界に飛ばされるのなら、何かしらのチート性能が欲しかったものだ。

 もっとも、やり始めた事を今さらナシにするわけにもいかないので、上澄み程度の知識を総動員しているのだがやはり妙案というものは出てこない。

 それでも俺の拙い水路計画を実行に移してからというもの、ルジをはじめ猫耳族のみんなが少しでも現在の住環境を改善しようと頑張る姿は、やはり嬉しく思うし、励みにもなる。


 「ただまあ、資金と人材がまったく足りないんだよなぁ…」


 そもそも自給自足で暮らす猫耳族に貨幣などは必要ではなく、集落とその周辺で生活のサイクルが完成してしまっているのだからそれも無理はないのだが。

 ちなみにサラサ達は、税の代わりに野菜などの食材を貰って生活しているとの事で、当然なのだが仮にも王を名乗る一族の割に資産がない。

 効率よく開発を進めるため、まずは外貨を獲得しようと書庫にある本を読み漁ったりしていたのだが、ひとつ思いついた事があった。


 「なあサラサ。昨日書庫でこの辺の地図みたいなのを見つけたんだけどさ」

 「うん?それがどうしたのじゃ?」


 城に戻った俺は、執務室でくつろぐサラサにそう言った。


 「アーテルの領地を狙ってる国ってのが、ゴドウィンとブレイリスだよな?」

 「うむ。遺憾ではあるがの」

 「で、その中間にスバインって小さい国があるんだが、ここはどうなんだ?」


 アーテルは周囲を大山脈と呼ばれる山々に囲まれており、その先にはただ荒野が広がるだけだという。かろうじてアーテルと隣接する位置にある二国が、ゴドウィンとブレイリスだと聞いていたのだが。

 ところが昨日、何気なく地図を眺めてみれば、両国に比べれば小さいが、スバインという国もここと隣接している事に気づいたのだ。


 「ああ、そこは中立国じゃ。そこは商売人の国でな。通商ギルドとかいう組織が実権を握っておる。スバインを敵に回すと各国からの商品の流入も止まってしまうからの。いくらゴドウィンとブレイリスといえ手は出せんのじゃ」

 「なるほど。それなら上手くいけば…」

 「エイト、今度は何を企んでおる?この前も急に水路を作るなど言い出した時は余も驚いたぞ?」

 「ん、ああ。まあ、それに関しては悪かったよ。完全に勢いで始めたおかげで問題も山積みだしな」


 怪訝そうな表情を浮かべたサラサに、俺は苦笑しつつ謝る。

 もっともそのおかげで、外貨を手に入れる手段を思いついたのだからまあ、これも経験だと割り切ろう。


 「今回は相談するつもりだったさ。ただ手札が揃うまではと思って黙ってたけど、それも何とかなりそうだしな」

 「手札?」

 「ああ。今回の水路作りを経験して思った事は、やはり国力の低さだ。金もない人もいないじゃどうにもならない。前に言ってただろ?この辺りの木は高く売れるらしいって。そこで考えたのが、材木を売って資金を集め、その金で人材を集める。物流が盛んになれば人も物も集まるだろうし、生活の水準も上げられる。つまり――」

 「なるほど。大口の取引先が欲しいというわけじゃな…おい、何を不思議そうな顔をしておる」

 「え?あ、いや別に…」


 まさか言い切る前に趣旨を理解してもらえるとは思わなかった。意外と賢いのかもしれない。少し見直したぞ。


 「ま、まあそういうわけでさ。買い手をどうやって探そうか悩んでたんだけどその国に行けば何とかなるかもって思ったんだ」


 小馬鹿にしていたのを悟られぬよう、あくまで平静を装って言う。幸いサラサは気づかなかったようで、しばらく腕を組んで考えると、


 「そうじゃな。余は金儲けなどに興味はないが、スバインの商人なら客を無碍に扱う事もせんじゃろうしの」

 「じゃあ、さっそく売り込みに行こうと思う。木材の試供品は今ルジ達が用意してくれてるからな。なるべく早く発ちたいんだけど、準備するものはあるかな?アルバさん


 振り返りつつ、いつの間にか背後にいたアルバ氏に尋ねる。この人の登場にも、だんだん慣れてきた。

 そんな俺に驚く事もなくアルバ氏はこう言った。


 「ふむ。歩いて三日といったところでしょうな。ですのでその間の保存食や野営の道具、あとは供の者を誰か連れて行けばよろしいかと」

 「それ、どのくらいで準備できます?」

 「明日にはご用意できますが」

 「じゃあ、お願いします。あとは誰に一緒に行って貰うかだけど」

 「そ、それなら余が――」   

 「駄目でございます」

 「駄目だな」

 「う、うぐっ」


 同行を申し出ようとしたサラサを、俺とアルバ氏が一刀両断する。


 「同行者はルジにでも頼みますよ。ま、他に当てにできる知り合いもいないんですけど」

 「かしこまりました。では準備を整えておきます。ああそれと」


 部屋を出て行こうとしたアルバ氏が思い出したように振り返る。


 「何ですか?」

 「スバインまでの道中は、魔獣や盗賊の類と遭遇する事もありえますので。武器を用意する必要がありますな」


 武器。そういえば探しておいてくれるって言ってたっけ。猫耳族の集落しか行ってなかったからすっかり忘れていた。


 「エイト殿にちょうど良い武器があります。よろしければ宝物庫へおいでいただけますかな?」

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