完結・開かないトビラ
別作・妄想男との想像バトルストーリー【ストロベリー・オン・ザ・軽機関銃】をお読み頂けると、さらに楽しく今話が読めるかと思います。
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(小説直通)
ただ懐かしい……(遠)。
「こ、これは……」
俺は調べ物をしようと、自分の部屋の机の上隅に置いてあるパソコンの電源を入れた。それからデスクトップが開いて、じゃあ早速とマウスを動かしてみたら……。
突然画面はそのままで、出るはずの無い音声がした。
『やあ窓香優くん! はじめまして こんにちは! 受験は頑張っているのかな? そんなものは放っておいて。僕と一緒に夢の世界で冒険しないか!』
確かにそう言った。夢の世界で冒険?
『画面に手を触れてごらん! そうしたら通り抜けてこちらに来られるのさ! 痛くはないよ、こちらに来れば素晴らしい世界が待っている。きっと君も気に入るはずさ』
確実に、俺に話しかけている。姿は無く明るく弾んだ声だけで、俺を誘っている。
どうしようか……。
受験もレベルの高い高校に行くわけでも無いし、いっそ行かなくてもと思う時もあるし。
行ってみようか。冒険へ。
俺がイスの上であぐらをかき両腕を組んで考えていると、誰かが部屋のドアを開けて中に入って来た。ガチャッ。
「優。借りてたオモチャ返しに……」
入って来たのは幼なじみの四道七生。ちょっと発想の変わった女の子。ついこの前、機関銃の上にイチゴが乗っている絵のポスターで県のコンテストの最優秀みどり賞を勝ち取ったばかりだ。
相変わらず適当に黒い長髪を垂らし、その手には先日俺の部屋から持ち出した改造エアガンを持って登場した。
ボーっと、いや、キョトンと。ドアを開け放したまま俺の方を見ていた。
「どうした、七生?」
「悪の気配がする」
いきなり、突拍子も無い事を言い出した。「何言ってんだお前、またそんな……」
俺が立ち上がってイスから少し離れると、七生が突然エアガンを構えた。
カチャッ。
「おい!?」
行きますよ。
「悪霊は そこだ!」
狙いは机の上の。「ちょっと!」
パ。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパ……
パパパパパパパパパ……
パパパッパ……
パ。
……
……たかだかオモチャのエアガンの威力程度だったので、連続乱射とはいえどディスプレイに穴が開く事は無かった。
しかし、画面が消えた。
さらに、電源も切れた。
プチーン……。
「ああ〜あ……」
俺は頭を抱えた。「カ・イ・カ・ン……」と七生はスッキリした顔で額の汗を拭った。
「『カ・イ・カ・ン』じゃ、ないだろ!」
七生に俺の説教が始まる。
……
……その頃。
誰も誘いにノッてくれなかった、『あちら』側では。
「チッ……」
黒い影の舌打ちが聞こえ辺り響く。それは実体の無い、影だけの存在。
空は光をも逃がさず吸い込み尽くしそうな黒の覆い。しかし相容れず下方の地表は赤光る。
地下では物質という物質が、悲観の亡者が群れを成し押し寄せるかのように暴れ狂い熱を帯びて融解している。赤の正体はマグマだ。マグマは、届かぬ天から見下され怒りもあらわに轟く声を。生物の心臓の脈打ちの如く鳴動を……。
それしか存在するものが無い。
命あるものの住む所では無い。決して無い。ココは。
「畜生めが。今日もいいカモが捕まらなかったぜ……」
影は実体の無い腕の先の長い爪で大きく空にバツを描いた。
笑いながら意味の持たない印を描いた。
ココは暗黒世界ウィ・ザード。
生きて帰れぬ所であった、皆。
セーーーフ!!
《本当にEND》
【あとがき】
やはり最初の短編でうまくシメておいた方がよかったかと思いましたが、結局書きました。ああ〜あ……。
こんな微妙な小説に最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
頑張ろう(ボソ)。