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続・開かないトビラ

 今夜は憧れの早乙女想一郎様の雅楽公演会の日。普通に会社のサラリーマンをしている旦那と高校生の一人息子を持つ、誰が見ても見た目は平々凡々、だが年甲斐も無く時々美少年隊を追っかけてしまうような主婦。それが荒井 きみ子だった。

 今の公子の追っかけは早乙女想一郎様。綺麗に整った顔。あの方が篳篥ひちりきという20センチほどの長さの縦笛に似た管楽器をお持ちになると、たちまち公子はその哀愁漂う音色にウットリと、現実と夢との間の揺りかごにでも揺られているような まどろんだ気分と世界へいざなわれる。

 世間からは主婦というレッテルを貼られ、旦那と息子に好き勝手を言われて何をされても我慢と、辛抱と、忍耐を盾にするだけの戦い。例え公子が病気になっても、忙しいだのと何だかんだで なかなか病院にまで行き着けなく知らん顔もいいとこなのだ。まだ公子には死ぬ気は全く無いけれども。

 そんな俗世をほんの一瞬発でも抜け出せるなら。お金は少々高くついたっていい。公子はそう考える。


(篳篥を奏でる想一郎様。ああ想一郎様。あの長くて細い指を10本もお持ちになっているなんて。そしてその指で優雅にその竹管を鳴らすのね。なんて素敵。本人を間近で見れて音を聴けるなんて私はなんて大幸運!)


 公子は家のリビングのイスに座ってテーブルに肘をつき、両の手で持ったシンプルな白黒印刷で書かれた公演会のチケットを眺めて。胸からしめつけられて出たため息を一つ。


 時刻は公演開始まで余裕の時間。けれど公子は待つつもりでも待ちきれず、家を出る事にした。

「ルンルルン♪」

 鼻歌が止まらない。止めてくれと懇願しても誰も公子を止められないかも。

「さてと。準備OK! 出かけまショ」

 誰も居ない無人の廊下で話しかける。ぶりっ子ヒロインポーズでキメて。

 今の公子は子供のようだ。


 トイレに行った後リビングに戻り、「ええとテレビのリモコン、リモコンっと……」と買ったばかりのカシミヤ製コートを着ながらキョロキョロと辺りを探す。やがてカウンターの上の新聞に隠れ敷かれたリモコンを手に取ると、早速つけっ放しのテレビを消そうと片手で構えた公子だった。


 しかしテレビは妙な事を言う。


『荒井公子さん! こんにちは!』


「!?」


 突然 画面から名前を呼ばれ驚く公子。テレビは大手の洗剤メーカーのCMを。子供のような明るい声だったが、流れるCMの内容とは一致していない。

 公子の体が固まった。

 謎の声主は続ける。


『この画面の向こうは空想世界・キャラメルワールド! 夢と自由とお菓子の世界! さあ、画面に手を触れて! 僕らと一緒に秘宝カカオと称号ポッキーを手に入れに旅立とう! さあ行こう!』


 公子は誘われた。


 その時テレビの画面に早乙女想一郎のCMが。早乙女様が微笑みながら「公演へどうぞ」と宣伝を。



「行かなくちゃ!」


 ブツリ。テレビの電源は切られた。

 そしてリモコンはテーブルの上に放られ、玄関へと駆けて行く公子。


 行くのは公演会。キャラメルワールドでは無い。



《END》




【あとがき】

 誰か開けてあげてください。


 しつこいですが、続きます(うーん;)。



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