開かないトビラ
相変わらずジャンル分けが苦手というよりは何でも話に入れたがる作者です。
詰めすぎ注意だ(手遅れ?)。
シンと静まり返った深夜2時55分。5階建てのマンション、4階の突き当たりの部屋406号室。そこに私は住んでいる。一人身で。とある小会社に勤め坦々と働く刺激の無い顔をしたサラリーマン男だ。
私は仕事に追われていた。今、周囲の生活音が無いこの夜という沈黙世界の中で。
カチカチカ……パソコンの、キーボード音とマウスの音だけが大きく響いている。
朝の出勤までに、まだ下書き状態で放られているこの書類の山を脳内で整理し。字に おこし。仕上げねばならなかった。
私は時間という現実に追われている。手が滑ってなるものかと。
時々、頭を掻きむしりたくなる衝動に駆られると、マルボロのタバコの箱をムシリと掴んで外のベランダへ出たりした……外は冷たい。吐く息だけが、温かかった。
間に合うか……間に合わせなければ。すべてがオジャンだ。私はクビをくくる。
少し落ち着いた後。私は部屋へと戻り、ガラガラ……と寂しくガラス戸を引き閉めた。タバコは、もう無い。
また角隅の机に向かう。何も動いちゃいない、動いているはずの無い机の上の書類の束や山。川のように山から崩れ落ちかけた紙。また、やりかけを思い出して続きを急がなければ。私はフウ……と息をつくしかできなかった。
「タバコは……無いか」
握るとクシャ、とマルボロの箱が軽い音を立てた。余計に癇に障る。同時に、次の時の事を想像した。次、もしタバコが吸いたくなったら……と。
近所の自販機まで歩いていくのか。無駄な時間だ。やってられない。
もう、朝まで何時間だ。迫ってくるのに。
私は一度座ったイスから立ち上がり、台所へと向かう。
頭を冷やせ。冷蔵庫にペットボトルのウーロン茶があったはずだ。飲みかけて少し日が経つが、構わない。飲んで少し気を落ち着け。
私は2ドアの冷蔵庫をパカリと開けた。
点くはずの照明が点かない。「?」
冷蔵庫の中は真っ暗。すると中から声がした。
『やあ ようこそ! こちらは幻視世界トゥー・ハース! さあ、ここの中へ飛び込んで! 僕と一緒に、夢と希望の冒険世界へ出かけよう!』
声だけで誘われた。
「いえ。朝、仕事ですんで」
私は断った。
パタン。ドアポケット側に置いてあったウーロン茶だけ取って、閉めた。
お茶は底に一口程度にしか残ってなく、そのまま一気にボトルで飲む。
出勤までに間に合うだろうか仕事。
《END》
【あとがき】
《END》と書きましたが続きます。
ココまででも短編として扱い可能です。
でも続きます。続く。