四日目
「ふぁ〜〜〜、ねっむ」
大きなあくびをしている男。ずいぶんとまた眠そうだな。
「腹へった…。でも何か作るのはめんどくさい…。てか、ねむい…。」
世の中こんなやつばっかだと世界は滅ぶだろうな。
「今日はパンの耳でいいか」
――――
「いただきます」
と、取り出したのはパンの耳。それを、
んむ
何もつけずに一口。
あむ
また一口。
「パンはいい…。何の手を加えずとも食べることが出来る」
ぼやきつつ、また一口。
「…喉かわいた」
と、言って冷蔵庫を、
「オープン」
開いて目的のものを取り出す。
「やっぱ牛乳でしょ。パンと合うのはさ」
んぐっ
もちろんこの横着者がコップに注いで飲むという行為するはずもなく。
「牛乳の直飲みサイコー」
と、までのたまった。尚、牛乳パックからの直飲みは衛生面的にも、マナー的な意味からも悪いことばかりなので普通はオススメしません。
「お口の中でパンの耳に牛乳が浸って、ふたつの甘さがハーモニーを奏で出すのさ」
ましてや、この男のように何かを食べながらパックから飲むとパックの中に食べカスが入るから、なおのことやめた方がいいです。
――――
「さてと、パンの耳だけだと飽きるから…」
あ、料理をするんだな。
「なにか調味料でもつけるか」
この横着者がっ!
「一番手はマヨネーズでしょ」
そう言うと男はパンの耳に直接マヨネーズをのせてパンの耳を一口。
「うん、マヨネーズは偉大だ…。だってパンの耳にのせるだけでもうまいんだもん。このまろやかな酸味という一見矛盾した味だけど、たまごと油の調和によって見事に成り立ってみせる…。うん、マヨネーズは偉大だ」
2回も言うべきことなのだろうか?
「マヨネーズは偉大だ!」
3回も言う必要はあるのだろうか?
「お次はケチャップ〜♪」
二番手はケチャップにしたらしい。つけては食べる、つけては食べる…を何度か繰り返すと。
「結構いけるな…。というかうまいね、パンとケチャップ。パンの甘さがケチャップのほのかな甘みを引き出し、ケチャップの酸味と上手くケンカし始める。だからと言ってそのままわかれるのではなく、最後には寄り添いあい、仲良く口から去っていく…」
うん、つまり?
「合格。うまし!」
何目線だよ。ピンクのベストでも着てるのか?
「ウスターソースをやってみるか」
俗に、「中濃ソース」や「トンカツソース」などと呼ばれる、あの黒いソース。揚げ物にかけると美味しいよね。
「……」
沈黙。
「……」
沈黙。
「……」
行動してくれないと話が進まないのだが。
「野菜や果物のギュッと濃縮された旨みが、スパイスの香しい刺激がつまった真っ黒なソース。それがパンと一緒に口に入れば一気にはじけ出す!ああ!主張してくる様々な材料たち!いつもは彩りだ何だとただ添えるだけとされてきたものがついに今日は主人公だと叫び出す!」
ウスターソース1つにずいぶんと語彙を重ねたな。
「あ、これマヨネーズと一緒に食べても
美味しくないか?」
すると、食器棚から小皿を出してマヨネーズとウスターソースをパンの耳で混ぜだした。
「う…これは…」
どうした。
「合う!これ合う!マヨネーズのまろやかさとウスターソースのトゲトゲしさが絶妙に絡み合ってイケルんだけど!」
それは良かったな。しかし、これはパンの耳ではなく、調味料主体で食べてるよな。
「次は何しよっかな〜。ケチャップかな?ケチャップ単体じゃなくてマヨネーズと混ぜようかな。ケチャマヨネーズか…。オーロラソースって言うんだっけ?」
それは日本だけな。フランスのオーロラソースはトマトピューレにバターを混ぜたものだぞ。
――――
「ごちそうさまでした」
あれから結局、何種類か調味料を試したが、
「ウスターソースとマヨネーズが一番だったな。でも、異論は認める」
という結論に至ったらしい。ところで誰に向かって異論を認めるのやら。
「さてと…今日は休みだし、二度寝するか」
うむ、おやすみなさい。
食ってすぐ寝たら牛になるぞ。