三日目
「うーん…うーん…」
男は唸っている。朝からずっとこの調子だ。もしや、昨日のアレがまだ引いて…、
「頭痛い…喉痛い…」
あ、これ風邪だ。
――――
最高気温が30度を超える「真夏日」だというのに布団を羽織って寝ている。
なぜなら、男は風邪を引いたから。もっと言うと「夏風邪」であろう。そして、「夏風邪」はバカが引く。つまりこの男は…、
「俺はバカじゃない…」
地の文と会話するなよ。
「くそう…あいつら…今に見てろよ…」
とスマートフォンを覗きつつ唸っている。友人からのSMSがきたのであろう。先程はタイミングが良かった(?)ようだ。
とはいえ、風邪を引いて具合が悪いの確かだろう。さっきから部屋どころか、ベットの上からすら動きやしない。
料理する体力すらなさそうなのである。しかし、まだ三日目なのに食事が出ないとなるとこれはもはやタイトル詐欺ではないだろうか…。
「こんな時こそ…なんか腹に入れないとな…」
やっぱり地の文が聞こえてたりしてない?
――――
ふらふらしつつも、男は台所に立つ…のではなく、ポツンと隅へ置かれたダンボールを漁り始める 。何を探しているのかというと、
「そうめん発見」
夏の風物詩の1つ「そうめん」である。
調理方法は至って簡単。ただ沸騰したお湯に突っ込んで、2分~3分間かき混ぜる。時間がきたら、ザルに流して冷水で洗うだけ。まぁ、簡単。
ただ、それだけだと味気ない。
そこで男は鍋に火をかけ、沸騰するまで何かないかと探し始める。
まずは冷蔵庫。
「ピーマン、豚肉の細切れ、バターに調味料…あ、梅干があった」
これがあればサッパリするかな、と思い梅干の入った容器を取り出す。
お次は棚だ。そう、次は棚を探すべきなのだ。なのだが。
「パス」
あまりにもごちゃごちゃしていたため、今の体力では探し切れないと断念。こうならないうちに片付けをするべきなのだろうが。
「めんどくさい…」
という、理由にすらならない理由で片付けは行われていない。だからいつも部屋が汚いのだ。
そうこうしているうちに、鍋の水が沸騰し始めたぞ。
「うー」
ざばっ、とそうめん入れ、ボンヤリとしながら鍋をかき混ぜる。
「梅干は…父さんが包丁でたたいていたような…。あぁ、でもめんどくさい。種ごとめんつゆに入れちゃえ」
風邪のせいか、正常な判断も出来ていないぞ、コイツ。
「あー、湯こぼしが…。ふっ!」
湯こぼしに一番いいのは「びっくり水」と呼ばれるもので、水を入れれば湯こぼしは収まる。
しかし、横着者は水を用意せずに「勢いよく息を吹きかける」という行動にでる。これでも一応は解決出来るからだ。
そうして、良い時間となり(当然体感時間。タイマーなどこの家にはない)、ざるに流して冷水で洗う。
「水が気持ちいい…」
ボーッとするのではなく、冷水で洗うのだ!
――――
「いただきます」
つやつや、と輝くそうめんを何本かとり、氷が浮かぶ、涼やかなめんつゆにくぐらせる。さっ、と引き上げれば、めんつゆに濡れたそうめんがくぐらせる前とは違う輝きで目を楽しませる。
ズルズルッ
「うまっ」(ボソッ)
と、呟くと、沈んでいる梅干を箸で蹂躙し、種を取り出す。
すると、なんということでしょう!
ただ、石っころのように沈んでいた梅干が華麗に花開くではありませんか!
その花をそうめんと一緒に食べる男。
「あー、すっぱ」(ボソッ)
風邪によって感想力も落ちてしまってる。
「そうめんって喉越し?がいいからあんまり喉刺激しないよね」(ボソッ)
ボソッ、と呟いてはズルズルッと吸い込む。
ボソッ、ズルズルッ、ボソッ、ズルズルッ。
毎日毎日思うのだが、この男は…。
「何かしゃべらないと物も食べられないのか…」
地の文とシンクロしないで下さい。
――――
「ごちそうさまでした」
男は挨拶をすませる。
「バイト先に今日は休むって言わんとな…」
ふと、男はスマートフォンを覗くと、
「まだ、12時…連絡するには早いか」
と、言って立ち上がる。
「汗かいたし、シャワー浴びよ」
だから!ヤロウのシャワーシーンなんて滅べよ!(切実)
あと、食べたら食器は片付けろ。