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習作

【習作】目覚め

作者: さとう

 眩い光が射し込み、外では鳥の囀りが聴こえた。目を覚ますと陽光煌めく朝は訪れていた。しかし、いつもと違う。自分の中で何かが奪われ、失われた感覚がある。目の覚める直前までに見ていた夢がそうさせるのか?


 夢の世界――荒れ果てた色のない大地、暗夜にかかる虹、月光は突き刺さるようにぎらぎらと輝いていた。何もない荒野に寂しい風が吹き付ける。風に乗って誰かの泣き声が聞こえた。世界の果てで泣いているのを運んできたようだ。

 果ての大地に届く微かな声は不安を煽る。やめてくれと懇願しても声は出ず、想いが届くことはなかった。ただただ泣く声だけがこの世界の無常を彩っていた。泣き声に誘われ、どこからか流れこむ自分でも捉えきれない感情が渦巻き、他者と世界と自分を隔たる壁を感じた時、そこで目が覚めた。


 そうして目覚めた先にあったのは、何かを奪われた感覚だけが残る朝であった。続いて起こったのは、それが大きな穴となって、私という存在を少しづつ呑み込んでゆくことだった。

 この現象は奪われたものが無くなった故のこと、それを思い出せばきっと止まり、何もかもが以前と変りなく元に戻る。

 そう考え、その為に、失われたものを取り戻そうと必死に探り続け、穴からの脱出を試みるが、それを形容する言葉や概念、あらゆるものが抜け落ちてしまっていた。私は自分が呑み込まれてゆくのを止めることはできなかった。


 得体のしれない喪失から、不気味な穴へ呑み込まれていくことは恐怖以外の何ものでもなかった。だが、呑まれ落ちていった先にはまた同じ、変わらぬ世界が広がっていた。恐怖と抜け出せない焦燥が、何をそこまで焦っていたのかと可笑しなものに思えるほどに、変わらぬ世界が戻ってきた。

 そう思った矢先のこと、違和感を感じた。目には見えない何か暗い影が私を覆っているように感じられたのだ。何だろうと訝しみ、見回すとどうやら、暗い影は世界全体に振りかかっているように思えた。

 これは何だろうかと、幾人かに尋ねてみたが、誰もそんな変化は起きていないという。私だけに起こっているようである。

 

 夢の世界に何かを奪われ、穴に呑み込まれてから見えるようになった、私だけに訪れた暗い世界。一体なにを夢の中で失い、穴を潜り変わってしまったのか。全てが何かとても大事なことだったような気がするけれど、それ以上のことはなにも出てこない。

 あの時みた夢の景色の中に答えはあるのだろうか。奪われた虚空から出来た穴に意味はあるのか。あれから変わってしまったのは間違いない。

 それから、失われたものを求め、また暗く見える世界を明るく変えるため、私の長い旅が始まった。

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