少年、目を覚ます
激痛に襲われ続け、痛みで気絶してその次の瞬間には激痛によってすぐに目を覚ましてというのを繰り返した。まったく身体も精神も休まる事もなく、叫び声を上げるほどの余裕もなかった。
余りの痛みに身体が暴れ続けるのを止めることは出来なかった。三日三晩かどうかはさっぱり分からないが、何日も日を跨いで中々痛みを抜く事ができずにいた。その間、ずっと誰かは分からないが俺の看護をし続けてくれた。
そして激痛が消えてから数日後、その余波の痛みが完全に身体から抜けきった。そして頭が完全に回らない状態ではあったものの、置いてあった自分の服に着替えて部屋を出て行った。
その時、俺は完全に失念していた。俺がいた部屋の外にある塔は完全な無重力空間みたいな場所で魔力を使わなければ動く事すらも儘ならないのだ、という事を。
「お……わっ!?」
扉を開けて足を一歩外に出すと、思いっきり足が空振りそのままの勢いで一回の部分まで落ちそうになった。まだ頭がはっきりと動いていないため、危険なのを理解しておらずそのままの勢いで身体が一階にぶつかりそうになった。
「危ない!」
もうあと数秒もすれば激突しそうになったのだが、身体を魔力が包み込み怪我をすることは避けられた。声のした方向を向いてみると、マリウスが凄く焦ったような顔をしながら近づいてきた。
「大丈夫かい?怪我とかはしていないかい?」
「……ああ、大丈夫。悪いな、手を煩わせたみたいで」
「何を謝る必要があるっていうんだい。君はきちんとあの地獄のような激痛の中で生き残ったんだ。それならこれぐらいはどうってことないよ」
「まあ、俺が望んだことだしな。あ……」
ふっと意識が遠くなり、まるで貧血のように身体がふらついた。そして倒れそうになった身体をマリウスが支えてくれた。その人肌のぬくもりにまた気が遠くなりそうになったが、なんとか頭を振って自分の力で立ち上がった。
「君もちゃんと栄養補給した方が良いね。滋養強壮効果のある飲み物を飲ませていたけど、流石に普通にスープぐらいは飲めるだろうし……とりあえず移動しよう」
マリウスにまるでお姫様抱っこのように抱えられた。いつもなら何とか振り払おうとするのだろうがそんなリアクションを取る事も適わないほどに俺の身体は疲弊しきっていた。何やら食堂らしき場所に足を踏み入れ、そこで作業していたメイドちゃんに何か言っていた。
ここまで疲弊しきっているとはさすがに苦笑を浮かべるほかない。あの薬の影響がどれほど大きい物なのか、分かる。まだ目覚めたばかりだから何とも言えないんだが、まるで体の中から溢れるように力が出てきているような気がする。
「これが……本来俺が持っているはずの魔力なのか。まったく最初とはまるで別物だな。こんだけあるとむしろどういう風に使用するのか、どれだけの術を会得できるのか気になって来るな」
俺がそう言ったのを訊いたマリウスとメイドちゃんはこちらを睨んでいた。まあなんとなく言いたいことは分かるんだが、それでも俺としては気になる。どれほどの力を手に入れたのか、あれだけの痛みと引き換えに得た物は一体どれほどの物なのか?
男だから、と言う訳ではなく単純に自分がどれほどの高みに上がる事が出来たのか。それが気になってしょうがない。知らない物を手に入れたいと願う己の願いを叶えるためには力が必要であることには変わらない。
「そこまで睨まなくったっていいじゃないか。あれだけの代償を払ったんだから自分がどれだけ上に行けているのか気になるのは当然だろ?」
「言いたいことは分かるけれど、それは地面にぶつかりかけた人の言う事じゃないと私は思うよ。……そうした私の言う事じゃないとも思うけどね」
「そうです。マリウス様はあなたが寝ている間、ずっと看病していたのにそれではマリウス様が浮かばれません」
「ちょっと、アーシャ何言ってるんだい!?」
「……まあ、しばらくの間は動けないことに変わりはないからそんなに心配するなよ」
「君まで悪乗りしなくてもいいよ!」
そう言って顔を真っ赤にしているマリウスの姿は不覚ながらも可愛いと言えるものだった。クール系美人のマリウスがそんな仕草を取るとギャップがやばい。
「それにしても……随分と長かったね。本来、あの薬を使っても二・三日も経てば効果が発揮されるはずなのにそれよりも時間がかかってたから正直慌てたよ」
「ああ~……やっぱり俺って危うい状態だったんだな。なんか変な光景も見えてきてたし、ちょっとやばいんじゃないか?と思ってたんだよな」
「変な光景?それって一体どういった物だったんだい?」
「え~っとな、既知感って知ってるか?この光景は見たことがある、この味は味わったことがある、この音楽は聞いたことがある。とにかく、これは経験した事があるんじゃないかという感覚だ」
「それはまあ、知っているけど……それが一体どうしたっていうんだい?」
「多分この世界の物だとは思うんだけどな。少なくとも俺がいた世界では見られないような光景を見たんだよ。それなのに俺はこう思ったんだよ|この光景は見たことがある《・・・・・・・・・・・・》ってな」
「…………」
「そんなに悩まなくたって大丈夫さ。そう思ったからって特にどうにかなってしまう訳じゃないんだからな。それよりも腹減ったからさ、早くなんか食わせてくれよ」
俺のその言い方にマリウスは苦笑しつつ、メイドちゃんはスープを用意してくれた。それを味わいながら、それ以上その感覚について何も思わないようにした。まるで世界の全てが汚泥であるかのように感じるあの感覚は思い出すだけで反吐が出るような感覚だからだ。
またあんな思いを味わうことになるとは……という想いを抱きつつもこれ以上考えても仕方がないので至高の奥底に鎮める事にするのだった。
一ヶ月以上遅れた割に内容が短くてすみません。これからは何とか更新頑張ろうと思いますので、よろしくお願いします。




