少年、魔術を学ぶ
大学生活が始まり中々執筆する時間もなくこんなにお待たせてしまい、申し訳ありせんでした。それではどうぞ。
いろいろとこの世界の事を教えてもらった翌日、俺はなんとかこの世界で生き抜くために魔術を習う事にした。
「さて、まずはどんな事を聞きたいんだい?魔術を学ぶ、と言ってもいろんな手法があるからね」
「いろんな手法があるとか言われてもこっちには何があるのかさっぱり分からないんだから、順番に教えてくれよ」
「えぇ〜……面倒くさい。大体、この世界は君が言うところの『ふぁんたじー』って奴なんだろう?思いつく限りやってみたら良いじゃないか」
「そんな行き当たりばったりで良いのかよ……?」
「先人は皆、同じ道を通ってるんだから問題ないよ!……まあ、僕はやった事ないから特にアドバイスとか出来ないだろうけど」
「なんでそんな自信満々みたいな雰囲気出しといて言う事が適当なんだよ……。まあ、いいや」
もはやこいつにいろんな事を思うのは無駄だと判断した俺は何を試してみようか、考えはじめた。魔法陣を使用した物や精霊に魔力を捧げる事で力を借りる物、他には召喚魔法とか……ありすぎて逆に悩むな。まずはメジャーな魔法陣でやってみるか。
頭の中でイメージして……こんな感じか?それを掌から出現させる感じで……
「無理か。まあ、そんな簡単にいっても困るだけだろうけど」
「こっちには何がしたいのかさっぱり分からないんだけど、一体何をしようとしてたんだい?」
「ん~?魔法陣みたいなのを頭に描いてそれを出現させるイメージ?と言っても、見ての通り失敗したんだけどな」
「……そりゃあ魔力を欠片も流さなきゃそうはなるだろうね。それに魔法陣って言ったって火とか水とか色々あるだろう?」
「そうは言っても違いなんて俺には分からないんだけど……」
「そうだね。例えば……こんな感じかな?」
指を振るうとそこから一瞬だけだが魔法陣が出現した。魔法陣の中央には火のマークが見えてそこから現れたのは青い炎が出て来た。火球を出したと思ったら背後に向けて光線状にして放った。そこにはやたらと大きな熊がいた。……腹を炭にされた状態で。
「これが炎系統の魔術の中で、中の上といったレベルの『蒼炎』という物さ。まあ、流石にいきなりこれぐらいやれとは言わないけどね。まずは……これぐらいかな?」
そう言ってマリウスが取り出したのは留め金の付いた一冊の本だった。これが一般的ないわゆる魔導書という奴なんだろうか?確かにこちらに貸してくれるのは嬉しいんだが……
「……この本、俺にはちょっと読めないんだけど」
話が通じているんだから大丈夫か、と思っていたんだがやっぱり文字は読めないのか……この世界のいろんな書物を読みたいと思ってたんだけどな。表紙を見てもなんかよく分からないマークが刻まれているようにしか見えない。
「……ああ、そういう事?大丈夫だよ、これはそういった類の魔導書じゃないからね。たとえ文字の読み書きが出来なくったって問題ないよ」
マリウスの言い分に首を傾げつつとりあえず本の留め金を外してみると、まるで意思でも持っているかのように開きものすごい速度でページが捲られていく。それに対して反応するほどの余裕は、残念ながら俺の中には残されていなかった。
なぜならまるでデータを直接頭に叩きつけられるように、魔導書に記載されているであろう魔法の知識を押し付けられていく。その作業が完全に終わった後、何分か分からないが頭を押さえたまま地面に跪いた。
「……お前な、何も言わずにこんな危険物を渡すんじゃねえよ。一歩間違えたら頭が破裂するような危険物だろ、これ」
「それは君が一気に全部の術式を閲覧したりしたからだろう?……まあ、あんなに生きが良いとはさすがに私としても予想外だったけど」
「おい!」
「まあまあ、良いじゃないか。それにそれだけの危険を侵しただけの価値はあっただろう?」
「そりゃそうだけどさ……」
記載されていたのは火系統の基本のマッチぐらいの炎を起こす『点火』からメジャーな火球を飛ばす『爆炎』、それに矢状の炎を飛ばす『炎矢』などの魔法が連ねてあった。生活用の魔法は名前に『火』と付いており戦闘用の魔法には『炎』という名前が付いている。
先ほどマリウスが使った『蒼炎』という魔法についても記載されていた。記載されてはいたが、威力が高すぎるので到底使う気にはならないような代物だ。生物の肉を炭化できるほどの熱量の魔法なんてそう易々と放てる訳ないだろ。
試しに『爆炎』でも使ってみようかと思って掌に叩きつけられた魔法陣を展開してみる。展開の仕方は俺がやったのと同じく、イメージして展開するだけ。本当はよりイメージを鮮明にするために何かしら詠唱した方が良いようだが……恥ずかしいのでしたくない。
「おお、いきなり無詠唱とはやるじゃないか。まあ、あんな長ったらしくて面倒くさい上に恥ずかしい詠唱なんて私もしたくないけどね。確か覚えている限りでは無詠唱で魔法陣を展開できる人間は数少ないはずだよ」
「戦闘中に詠唱なんてしてる暇あるのかよ。いくら威力が強くったって近づかれて攻撃でもされたら終わりじゃないか」
「そもそもいわゆる魔術師と呼ばれる人種は大体が国で管理しているんだよ。冒険者みたいな荒くれ者になる者なんてほんの一握りだし、なった魔術師の力量は低いからね。少なくとも冒険者として魔術師に期待を掛けたりはしないんだよ」
どうやら野良の魔術師というのはそんなにいないようだ。それにしてもほとんどの魔術師が国のお抱えになっているとは……マリウスが見た国はそんなに戦力強化に対して熱心な国だったんだろうか?
掌に出しっぱなしにしている『爆炎』に急に空気中の魔力が集まってきた。一体何なのかと思っていると、どんどん侵入してきた魔力が術式を干渉し始めた。もはや別物と言っても過言でもない代物にだんだん形が変わってきた。
流石にこれは放置しておくのはあれだと思っていると、後ろの茂みから見たこともない明らかに凶暴そうな猪がこちらに向かって突進してきていた。そいつに向けて勝手に変化させられた『爆炎』をぶつけてみると――――猪の体は粉々に爆散した。
「……何あれ。ここは『夢幻迷宮』だよ?高々『爆炎』程度の魔法でここに生息している魔物が倒せるわけがないじゃないか。ミツル、君は一体何をしたんだい?……ミツル?」
「…………………」
まるで身体から水分を一気に抜き取られてしまったかのように酷く喉が渇く。フルマラソンでもしたみたいに息が荒く、しまいには視界がぼやけてきた。マリウスやメイドちゃんが何かを言っているが反応をする事すらも儘ならず……俺は意識を手放した。