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少年、異世界にて迷子になる

魔法陣から出た先はなんかでかい空間の中!……なんてことはなく、まさしく何処だよここは?と言いたくなるような草原だった。周りには誰もいなくてまさしく一人だけだった。なんかわけのわからない球体まで見えたりしているが、どうでもいいか。


ひとまずここがどこなのか確認しないと……と言ってもどうせ言われてもさっぱり分からない、というかそもそも言葉が通じるのか?それもこれも街を見つけないと話にならないんだろうけど。ひとまずはなんか見えるあの馬鹿みたいにでかい塔を目指すか。


それから歩くこと暫し、一向に目的地に着けない。正直イライラするよりも先に疲れてきたのであんまりしたくないのだが地べたに座り込んだ。そして傍に生えていた木に寄りかかり休んでいると見たこともない種類のリスっぽい何かが近づいて来た。


特に何か渡せるものがある訳ではないので撫でる事しかできない。そうやってのんびりしていると急にリスに似た何かが手元から離れて袖を引っ張り始めた。何をしたいのか皆目見当がつかないが、どうするべきかも分からない以上別について行っても構わないだろう。


そうして進んでいった先には目的としていた塔だった。リスに似た何かはそのまままっすぐ進んでいったが、俺はそうすることが躊躇われた。何故かはわからないが、今の自分ではこの塔に入ることはできないのだと何となくだが察する事が出来た。


試しにそこに転がっていた石ころを投げてみると、それはそのまますり抜けた。だが上から侵入しようとしていた鳥は網状の何かに絡まれて動く事が出来なくなる――――と同時に電撃か何かで焼き鳥にされてしまっていた。


察するにこの塔の周りには結界的な物があって、それは何かしらの条件の下でしか突破できなくてその条件を満たせない者には先ほど侵入しようとした鳥のように電撃で丸焼けというシステムなのだろう。しかもこの結界、中がどういう風になっているのか分からないので無理やり突破するという案は不採用だ。


だからと言ってこれ以上、ここで立ち往生していても仕方がない。入る事が出来ない以上、ここにいても仕方がない。その場を後にしようとすると、急に結界的な物から嫌な予感が消えた。それを感覚的に察知した俺はゆっくりと手を突っ込んだ。


若干ピリピリとはするが、それでも耐えられない程度ではなくなった。さっきのが致死レベルの電撃だとすると今のは大体静電気レベル。これが相手に出来る精一杯なのだろう。もしそうであるならこれ以上、自分が相手に何かを求めるのは間違っている。


「さて、こうやって悩んでいても仕方がないしな……行こう」


ちょっとした痺れを耐えながら結界的な物を抜けた。そこには結界の外側とは映えている植物が全く違っていた。ここと外側では地質が違うのだろうか?そんな事を考えていると、塔の巨大な扉が開きそこから人影が見えた。


「……誰?ヒューマンがこんな場所に何の用なの?」


「先にそっちの名前を知りたいとこだけど……まずはこっちが名乗っておくべきだよな。俺の名前は白羽満。ごく普通の一般人だ」


「……私の名前はアーシャ・カセンドラ。この塔の主マリウス・シャヘナ・ヘジト・グラディアス様の従者」


「はあ……そんなこと言われてもこっちには何のことかさっぱり分からないんだけどな。あんたがどこの誰で、ここがどんな場所なのかなんて俺には分からないんだから」


「それは、本気で言ってるの?」


「こんな遭難状態で冗談を言えるほど、俺の肝は太くないんだよ。たとえあんたの主がどこかの国の隠し子でも、ただの農民でも関係ないんだよ。俺は迷子状態で異世界に放り出されててあんたはひょっとしたら俺を助けてくれるかもしれない。たったそれだけの事だろうが。何を迷う必要があるんだよ?」


俺のめちゃくちゃな言い分に無表情を地でいくメイドの少女も唖然とした雰囲気を漂わせていた。自分で言っておいてなんだが、論理的とは到底言えないような言い分であることは自覚している。でも何の手助けもない状態で放り出された俺には目の前にいる少女、或いはその主とやらに助けを求めるほかない。


そう考えて腹をくくっていると唐突に笑い声が聞こえて来た。その声の主はあのリスだった。――――目を怪しく光らせてはいたが。


「ハハハハハハハッ!中々愉快な少年じゃないか。アーシャ、彼を最上階まで連れてきてくれ。話をしたいからね」


「しかしマリウス様、まだこの者が安全と判断できたわけでは……」



「私は連れてこい、と言ってるんだよ?お前はいつから私の命令に反論できるほど偉くなったんだ?」



「……申し訳ありませ」


「その言い分はないんじゃねえの?この子はあんたを案じただけなんだからそこまで強く言わなくたっていいじゃないか」


「ほう……助けてもらえるかもしれないのにその可能性を持つ私にそんな事を言ってもいいのかい?言っておくがここらには村などもありはしないよ?」


「そりゃあ助けてもらえるならそれに越したことはないさ。でもさ、正しい事をして怒られるなんて気にくわない。頭の悪いガキ大将でもあるまいし、主だっていうなら真面目な忠言ぐらいしっかりと受け止めろよ」


「面白いなあ……普通ならこの国の、いやこの世界のヒューマンは私の名前を聞いただけで皆一様に黙って従うんだけどな。先ほど言っていた異世界に放り出されたという言葉に嘘はないようだ。アーシャ、さっきの件を不問とする。そのかわり彼を早く連れてきなさい。問題はないさ。いざと言う時は吹き飛ばすからね」


「……畏まりました。早急にお連れします」


「頼んだよ」


それだけ告げると正体不明の主(おそらくは女)の気配は消え、リスはぱちくりと瞬きするとそのまま森の方に走っていった。それを見送っていると、メイドちゃんからの視線を感じたのでそちらに向き直ると少女は塔の方に戻ったのでその後ろを追いかけた。


そして塔の中に入ったのだがそこには草原で見た時よりも多くのわけのわからない球がいっぱいあって、こちらにすり寄ってきた。こいつらはひょっとしてファンタジー世界によくいる精霊とかいう奴なんだろうか?


こいつらの正体は詳しくは分からないけど、それでもこちらに害意を与える気はないのだろう。それならそこまで気にする必要はない。そして最上階と言うから会談でも登るのだろうかと思っていると、ああ、ここは本当に異世界なのだと実感できるような現場にであった。


そこらじゅうの壁の中に本が入っていた。分かりやすく言うと本棚と塔の壁が融合しているうえに、階段などという物はなく本棚の間に偶に扉があった。しかも一番重要なのは――――塔の中が完全な無重力空間だったという事だ。


「うわ、うわ、うわわわわ!」


宇宙飛行士でもあるまいし、無重力空間で動く訓練なんかした事はない。メイドちゃんの方はどうしているのかと思って見てみると少女の周りをわけのわからない球が包み込んで移動していた。本当に何なんだろうな、これは?


とりあえず心の中で集まれ~、と呟いてみるとめちゃくちゃ集まってきた。そのあまりの多さにメイドちゃんがまるで驚いたような表情でこちらを見ていた。一体どうしたんだろうか?俺自身、確かに集めすぎたとは思うが……


「……こんなに魔力を持っているなんて。この人は本当にヒューマンなの?」


「なんか言った?」


「いえ、何でもありません。そろそろ付きますのでもう少し抑えてください」


「ういうい……危ねえ!」


「え?きゃあっ!」


扉越しに莫大な数の球が集まっているのを感覚として認識した瞬間、俺はメイドちゃんの肩を掴んで思いっきり投げ飛ばした。そして同時進行で球を壁になるように集めた。十分な量を集められるのと同時に思いっきり扉が開き、強烈な衝撃が襲ってきた。


どうやら集めた球では完全には守り切れなかったらしい。俺は後ろにあった本棚に思いっきり叩きつけられた。そして余りの痛みに気を失う寸前に俺が見たのは驚きの視線を向けてるメイドちゃんと最高の玩具を見つけたかのように笑顔を浮かべている絶世の美女の姿だった。

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