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少年、里から離れる

話が終わって一時間もすると、俺は塔に戻る事にした。その旨をカズネに伝えると、大量の土産を渡された。


「なんでこんな物を持っていかなきゃならないんだよ……」


「せめてものお詫びさ。かなり迷惑をかけちまったからね」


「迷惑、ね……そんなの気にする必要なんかねえのに。ま、貰える物は貰っておくけどよ」


「そうそう、グダグダ言わずに受け取っておけばいいんだよ。あのお嬢ちゃんにもよろしく伝えておいてちょうだいな」


「それが目的なんだろ?」


「ハッハッハッ、そうとも言うかね」


まったく、種族通りのずる賢い奴だ。まあ、俺は文句を言うつもりなんて欠片もないんだけど。なんだか見えてきた物もあるしな。


「ま、あたしもそんだけの量を坊や一人で運べ、なんて言いやしないさ。サラ、手伝ってやりな」


「え?あの塔に近付くのは禁止なんじゃなかったの?」


「あんたも次期長候補だからねぇ……あのお嬢ちゃんに会っておくのも手だと思うよ。どうせ関係を築く必要性はあるんだし、一石二鳥ってもんさ」


「……そんなに適当で良いの?」


「良いんだよ。次期長候補でありあたしの娘でもあるあんたが出向けば、少なくとも面子は立つ。あのお嬢ちゃんもそれぐらいのことは分かっているだろうさ」


「めんどくさそうな顔はすると思うけどな。自分の関係ないことには関わりたがらない気質のやつだしな、きっと。俺にもそこまで執着は持ってないと思うぞ。なにせ、会ってまだ一ヶ月も経ってないからな」


「女心の分かんないやつだねぇ。時間なんて関係ないのさ。そういうのはね」


「男には分かんないから女心なんだろ?」


「また口の減らない……まあ、良いさ。あんたのこれからがどんな物かは知らないけど、決してまともな物じゃない事だけは確かだよ。気を付けるんだね」


「そんなの今更だ。俺は自分の将来がまともな物になる、なんて一度も考えたことないしな。そんな希望を持つほど恵まれている訳でもない」


「……そうかい」


カズネは何とも言えない微妙な表情を浮かべながらそう言った。自分では割り切っている事なのでこんな風に反応されると若干困る。他人に思われてもどうにもならないのだから、されても相手が損するだけだ。


「とにかく!サラがついて来る意味なんてないだろ。あいつにとっちゃ族長がカズネだろうがサラだろうが誰でも良いんだ。ただ自分の研究の邪魔をしなければそれで良いんだから」


「それでも通すべき仁義って物があるのさ。それにあのお嬢ちゃんの前に立てば、どうしてあたしたちが後れを取ったのか分かるだろうしね」


「そうなんだ……その相手のエルフって、そんなにとんでもないんだね」


「……昔、教えてやったろう?私らや他の部族を一網打尽にした相手があの塔には住んでる、って。覚えてないのかい?」


「覚えてるけどさ……現実味がなさ過ぎて本当だとは思わなかったし。その話、『いくら強くなっても上には上がいるから調子に乗るな』っていう意味で言ってると思ってた」


「あんたねぇ……」


カズネはサラのあっけからんとした表情に呆れかえっていた。まあ、忠告してやった事を全く別の意味で取られたら、そういうリアクションも取りたくなるわな。


「それじゃあ、行ってくるね。謝罪もきちんとしてくるから気にしないで」


「なんだか心配になってきたけど……頼んだよ」


「うん。それじゃあ、行ってきます」


「はいよ。あのお嬢ちゃんによろしく伝えといておくれ。あんたも達者でね」


俺はぞんざい気味に手を振ると、塔に向かって歩き始めた。その後ろから土産の詰まった袋を持ったサラが追いかけてきた。


二人で黙って塔を目指して森を歩いていると、ふとサラが足を止めた。そんなサラに視線を向けると、脇道から唐突に仮面をつけた二人組が襲い掛かってきた。サラは荷物を捨て、片方を投げ飛ばした。


俺の首元目掛けて揮われる腕を紙一重で躱しつつ、腹に魔銃を押し付けて引き金を引いた。しかし、どうやってか空気を蹴り飛ばし(・・・・・・・・)回避した。この森にいる連中は空気を蹴れるのがデフォルトなんだろうか?


だが、サラで一度見たのでそれで動きが止まる事はない。とにかく引き金を引き続ける。回避するための道を塞ぎ、それ以上の距離を稼げないようにする。


ここに来て学んだ事がある。それは敵対してきた相手には躊躇うことなく攻撃するべきである、という事。地球の頃のように殺す事を躊躇っていては自分が死ぬ可能性が高い。それは第一に避けるべき事だ。


魔銃とはいえ、撃ち続ければ弾は尽きる。弾が尽きればリロードする必要が生まれるし、弾が出ない以上は射撃も止まる。そしてそんな隙を相手が見逃すはずがない。案の定、相手は俺に向かって突っ込んできた。


それを躱しつつ、肉体を魔力で強化した上に銃床で頭部を殴りつける。普通の人間であれば死ぬか気絶してもおかしくない一撃だったが、目の前の敵は人間じゃない。なので、相手はただ吹き飛ばされるだけだった。


相手が体勢を整えようとしている間に、リロードを済ませる。出来れば薬莢を回収したいが、そんな暇はなさそうだった。俺が銃を構え続けていると、目の前の敵は仮面を剥ぎ取った。


そこには明朗快活といった雰囲気の青年がいた。ただ言える事があるとするなら、その人物は虎のような縞模様が顔についている上に虎というか猫の耳が付いていたので、ぶっちゃけちょっと気持ち悪かった。


「いやぁ、強い強い。サラと一緒にいるだけあって強いな、お前!」


「いきなり襲い掛かってきた奴にそんな事を言われても困るんだが。大体、誰だあんた?俺に一体何の用があるって言うんだ?」


「用なんてねぇよ?ただ、サラが珍しく誰かと一緒に歩いてるし、その相手が男ときたもんだ。だったら、そいつはきっとサラと同格かそれ以上に強いに違いねぇ。そんで強い奴が目の前にいるのなら、戦おうと思うのが男ってもんだろ」


「……こいつ、脳筋か」


ため息を吐きたくなってきた。ふと後ろを振り返ると、首を掴まれて地面に抑えられてる仮面の女とその首を抑えているサラの姿があった。そしてサラの尻尾らしきものが仮面の女につきつけられていた。


「おいおい、お前は昔馴染みに何やってんだよ!ミシェルももう良いから仮面を取れ!」


「急に襲ってくる方が悪いんだよ。ティーガもミシェルも私をちょっと舐めすぎだよ。あの程度の不意打ちでやれる訳ないでしょ」


そう言いながらサラは首から手を離して仮面の女の上から退いた。仮面の女も首をさすりながら仮面を外した。その顔は男――――ティーガとやらとよく似ていた。


「だから言ったでしょ。こんな変な偽装と不意打ちでサラがやられる訳がないって。お兄ちゃんもなんで途中で止めてるのよ!最後までやってた私が馬鹿みたいじゃない……」


「はっはっは。まあ、そう言うな。一当てしてみてこいつの実力も大体わかったし、俺はそれで良い。それに、俺はお前に最後まで戦えなんて言ってないぞ。お前が勝手に勘違いしただけの話だ」


「ちょ……それはちょっと酷すぎるんじゃない!?」


「俺はそろそろこの事態を何とかしてほしいんだが……さっきも言ったけど、誰だ?あんた達。俺が一体何をした?」


「おっと、確かにその通りだな。まずは自己紹介から始めるとしようか」


ティーガとやらが笑いながらそう言うのをイラッとしつつも我慢した。しかし、堪え切れていないのか眉がピクピクと動いていた。それを不憫そうに見つめているサラがいた。


「俺の名前はティーゲル・グスタフ。ティーガ、って呼んでくれ。種族は虎人族だ。こっちは俺の妹であるミシェル・グスタフ。俺たちはサラと顔なじみでな。いつもはこの辺で遊んでいたんだ。最近は俺もサラも忙しくて会う事が出来なかったんだが、久しぶりに暇が出来たのでここに訪れたんだ。そうしたらサラの顔が見えたので挨拶でもしようかと思ったんだ。

だが、傍にはお前がいただろう?どういう事だと思った訳だ。何せここには虎人族と龍人族、それに鳥人族と狐人族しかいない。なのに、人族であるお前がサラと共にいるのを不思議に思ってな。なので、一当てしてみようと思ったわけだ」


「待て。待て待て待て。最後が意味わからんぞ!」


なんで急にそんな結論へ至るんだ!途中まで納得出来てたのに、最後でよく分からなくなっちまったじゃねぇか!


「えっと、ティーガ……ティーゲルの渾名ね。とにかく、ティーガは戦闘狂の気があってね。口で語り合うより殴り合った方が早い、と思うタイプなんだよ。だから、とりあえず分からない事があったら戦い始めるんだ」


「そうか……まったくさっぱり欠片も意味が分からんが一つだけ言っておく。――――お前もだろうが!類は友を呼ぶを実践してんのか!?」」


「なっ!?私はここまで酷くないよ!」


「変わんねぇよ!俺をぼこぼこにした奴が今さら何を言ってやがる!お前のせいで未だに身体の節々が痛ぇんだよ!」


「それを言ったらあたしなんて魔弾を殴った手が痛いんですけど!?」


「お前のは自業自得だろうが!」


俺とサラで息を切らしながらそう言いあっている様に、ティーガとミシェルはポカンとしながら眺めていた。だが、暫くすると二人とも笑い始めた。そんな二人を見て俺もサラも言い合いを止めた。


「フフ……アハハハハハハッ!ちょ、ちょっと二人とも……そろそろ止めて。お腹痛い……」


「ククク……ハハハハハハハハハッ!こいつは傑作だな!あのサラと言い合いをする奴が出てくるなんて思っても見なかったぜ!」


「ちょ……二人とも笑いすぎだよ!」


爆笑する二人を前にサラは顔を真っ赤にしながら叫んだ。俺はそのやり取りを見て呆れたような顔をするほかなかった。序に言うとティーガたちに絡むのが付かれたのでさっさと戻りたかった。


「それで?もう他に用事がないんなら行って良いか?」


相手をするのも面倒くさかった。解放されるならさっさと解放されたいと思うのも無理ないだろう。


「お?いやいや、用事は別にあるさ」


「……なんだよ?」



「俺と一緒に里の方に来てもらうぞ、人間?」


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