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少年、過去を知る

凄く久しぶりの更新です。皆様、大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした!

「さて、坊や。約束通り、こちらの話をしようじゃないか」


俺はカズネたちと朝食を食べた後、カズネに呼び出されておそらくカズネの部屋と思われる場所で向き合っていた。


「そうだな。それじゃあ、まずはあの蜘蛛の事を訊こうか。あれは一体どういう存在なんだ?」


「あの蜘蛛は魔力や肉を食って成長する個体だったんだ。何処から連れてこられたのかは知らないけど、あたし達は本当に迷惑していたんだ。あの蜘蛛を買ってくれた事には感謝しておくよ。ありがとう」


「どういたしまして。まあ、実力がどれだけあるのかは知らないけどどうにか対処できたんなら俺が出張る必要はなかったんだろうけど」


「いや、さしものあたしでもあれを無傷で倒すのは無理だ。むしろあたし達よりも脆弱な肉体でよくアレを倒せたもんだと思ってるよ」


「俺はあれが初めて戦った相手だからな……よく分からん」


「……坊や。前々からちょっとおかしいと思ってたんだけど、この際だから話してくれやしないかい?あれが初めての戦闘だったなんてちょっと信じられないよ」


「う~ん……俺は別に話しても構わないんだが、きっと信じられないと思うしそれにマリウスがなんか言ってきそうな気がするんだけど、それでも良いか?」


「あのお嬢ちゃんが?坊やの素性ってのは、あのお嬢ちゃんが興味を持つほどに珍しいものだって言うのかい?それはまたたまげたもんだと言う他ないが……心配は無用さ。あたしだってこの里で長やってるんだ。ちょっとやそっとじゃ負けはしないよ」


「まあ、争いに発展するとまでは思っていないがな。ただ拗ねて嫌がらせをしてくるかもしれない……いや、ないか。あいつがそんな非生産的なことをする意味ないし」


マリウスは俺の事情に興味があるみたいだが、他人が知ったからってそこまで変な事はしないだろ。知ったとしても、それはそれ。その程度で俺の価値が下がるわけでもないし、そこまで目くじらを立てることはないだろう。


「まあ、あのお嬢ちゃんならそうだろうね。坊やは知らないと思うけど、この『夢幻迷宮』にはあたし達狐人族を含めて四つの獣人族がいる。


一つが虎人族。強靭な身体能力を持っていて、この森にいる魔物だって奴らの手にかかれば大抵は雑魚に落ちるだろうさ。外の人族からすれば表層部分でも強敵だろうがね。


次に龍人族。まあ、いわゆる外で言うドラゴンだね。竜の子孫とも言われているし、その戦闘能力は虎人族と遜色ないよ。ただ虎人族とは違って圧倒的なまでの魔力を持っているから、そこが大きな差かね?


そんで次が鳥人族。ただの鳥と侮っちゃ駄目だね。やつらは鳳の一族の末裔なんだ。その涙は傷を癒すとまで言われている不死鳥フェニックスのね。大空から攻めることができるアドバンテージは途方もないよ。


そして最後があたし達、狐人族さ。確かに他の獣人族の連中と比べれば、あたし達の戦闘力は高くない。その代わり、他の獣人族には使えない強力な術や幻術を操ることができる。だからあたし達はここで他の獣人とタメを張れるのさ」


聞く限り、これってほとんど四神獣だよな。玄武の代わりに九尾が入ってるみたいだけど。っていうか、今『表層部分』って言ったよな?それなら何だ。ここはまさか最奥に近い場所なのか?なんて所に落としてくれてんだ、コラ。


「そんなあたし達を相手に、あのお嬢ちゃんはこう言った。『私はあの塔に住む。邪魔をしなければ何もしないが、もし襲い掛かってくるなら私があんた達を排除する』ってね。もちろんあたし達は怒り狂ったさ。


『たかがエルフ風情が我らを相手に偉そうにするな』ってね。そして珍しく全員が同盟組んで一斉攻撃さ。これだけの面子が揃ってるんだ。負けるわけない……と、思ってたんだよね。最初は」


「まあ、マリウスの恐れられ具合を見ればあんたらは負けたんだろうが……」


「負けも負け。完敗さ。まずあのお嬢ちゃんは有り余る量の魔力を使って、空から攻撃していた鳥人族の面子を叩き落としたんだ。それに動揺してたら、虎人族が拘束され次に龍人族が捕まった。もちろん虎人族も龍人族も自慢の身体能力や魔力を使って突破しようとした。


だが、突破することは叶わなかった。あたし達だけでも一矢報いる、とばかりに攻撃してみたけど……自慢の幻術も種族適正の技も全部防がれちまった。あれはまるで幼かった頃に自分の父と戦った時みたいだったね。


結果として、あのお嬢ちゃんはあたしらを殺さなかった。撃退するだけに留めたんだね。まあ、そこでその戦いに参加した者たちの心が折れたんだよ。こいつと自分達とでは格の差が大きすぎる、ってね。友好的にしていた方が良いと判断して、あたし達はお嬢ちゃんに食料を分けたりするようになったんだよ」


「そんなに強かったんだ。それなのに昨日はよくあんな事を言い出す奴がいたな」


「しょうがないさ。それがあいつらの仕事だからね。まあ、あれからだいぶ時間も過ぎてるし恐怖心が薄れたっていうのもあるんだろうね。まあ、あのお嬢ちゃんがハイエンシェントエルフだって聞いた時にはたまげたもんさ。はっはっはっはっ!」


なんでこいつはこんなに余裕綽々な雰囲気で語ってるんだろ……もうずいぶんと昔とはいえ、それでもマリウスは相当な脅威だった筈なのに。


「ん?なんか不思議な事でもあるのかい?」


「なんでそんなに呆気からんとしてるんだよ。負けたんだぞ?」


「ああ、その事かい?良いかい、あたしたちは獣人だ。人型をしているとはいえ、その先祖は獣なんだ。そして獣が生きる世界において、強さって言うのは絶対の指標なんだ。弱肉強食っていう言葉はまさしくあたし等の社会をそのまま表してるんだ」


「強いからこそ上に見るべきだって言うのか?」


「そうだね。あの嬢ちゃんはあの時、確かにこの森に生きる誰よりも強かった。そして強いのなら、その相手が言った言葉には従う。当然の理屈だろう?」


「そう簡単に言う事が出来たら、人間の社会はもっと楽になってるだろうな。いっそ羨ましいとも言いたくなるぐらいだ」


「何を言っているのやら。坊やだってサラに勝ったじゃないのさ。その点を見れば、坊やここでも相当の力の持ち主って事じゃないのさ」


「……俺のはそういうのじゃないんだよ。最早チートと言っても良いぜ。聞けば誰もが羨ましがるんだろうがな。俺はこんな物いらなかった。今でもそう思ってる」


「……どういう事だい?坊やは自分の勝利を否定するっていうのかい?それはあの子に対する侮辱でもあるんだよ?」


カズネの瞳が細くなり、その視線に敵意のような物がちらつき始めた。だけど、しょうがないんだ。俺はこの力が嫌いで、でもいざとなったら頼ってしまう弱い人間だから。だから、アレは憎くてしょうがない。邪魔くさくてしょうがない。アレに頼って得た勝利を誇るなんて、俺には出来ない。



「……なあ、あんたはさ。既知感って知ってるか?」



「藪から棒に何を……」


カズネは混乱していた。確かに急にこんな事を言われれば混乱するだろう。だが、俺にとってはとても重要な問題だ。だって、これは俺の重荷なんだから。


俺がまっすぐにカズネを見ていると、カズネも冗談や話をそらすために言っているのではない事を察した。


「名前と意味ぐらいは知ってるし、感じたこともあるよ。でも、それが何だって言うんだい?」


「俺はさ。前の世界にいた時からずっとそれを感じてんだよ。ああ、これは見たことがある。食べたことがある。飲んだことがある。話したことがある。ってな」


「……………」


「いつもいつも、俺が良かったと思う場面で出てきやがる。お前はそんな感情を味わう権利はないんだ、と言わんばかりにな。だからさ、サラと戦ってた時も俺は常に既知(デジャブ)ってたんだ。ああ、こいつとは戦った事があってこの光景は見たことがある、ってな」


「それは……」


人にとって耐えがたい絶望である。寧ろなぜ今も生きているのかが分からない。カズネはそう言いたそうにしていた。これが人聞きの話だと言っていれば、言ってしまっていたかもしれない。


物心ついた頃からずっとずっと味わってきた。やっと手が届いたと思った美しい世界がぐちゃぐちゃに汚されてしまう、嫌な感覚。不快な感覚を十年以上味わってきた。


「だから、ずっといろんな事をやってきた。何か、何かある筈なんだ。俺が見たことのない景色が、食べたことのない食事が、聞いたことのない音楽が。そう思わねぇと生きてらんねぇしな」


「……それで、見つかったのかい?」


「……いや。これぽっちも見つからねぇ。この世界に来て、一抹の希望を抱いたんだ。なにせ、異世界だ。ここならきっと、俺の求めている物があると思ったよ。……でも、ここも駄目だった」


「……あんた、よく生きてられるね。あたしだったらとっくの昔に自殺してる自信があるよ。そんなの地獄と同じさ」


「……俺もそう思うよ。ただな、こんな俺でも救いがあったのさ」


「……どういう事だい?」


「何度見ても飽きない光景があるように、何度会っても飽きない奴がいた。それだけの話さ。俺が言うのもなんだが、あいつも結構歪んでてな。何でもかんでも救おうとする馬鹿だった」


「……………」


「その癖、その場所にいたがる馬鹿だった。一個の場所に固執してるくせに、次々と人を救って女を惚れさせてた。物語の主人公みたいにな。俺はいつもあいつの尻拭いばかりさせられてたよ」


世話のかかる奴だった。物語の主人公みたいにぐいぐいと引っ張っていくタイプじゃなかった。でも、何故かあいつの周りには人が集まっていた。まるで、|そういう運命であるかのように《・・・・・・・・・・・・・・》。


自分から騒動に巻き込まれていくから、あいつの傍にいれば退屈とは無縁の生活だった。それは現状が既に証明している。


「退屈だけはしなかったんだ。まあ、面倒な事が多かっただけとも言えるがな。明らかに性格のベクトルが違うのに、何故か仲が良かったのは不思議だったけどな」


「良いともに恵まれたって事じゃないか。……良かったね」


「ああ……そうだな。良かったよ。それだけは本当にそう思う」

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