少年、考え事をする
いつも通りの生活。いつも通りの日常。いつも通りの街並み。世界には様々な物が当たり前のようにありふれている。たくさんの人が型にはまった生活を送っている。
しかしそれは仕方ない事なのだろう。飛び出た者は、飛び出た釘はすぐさま打たれるのがこの世の常だ。異端は排除される。だからこそ、飛び出たことをする者は世界中にはあまり存在しない。そんな事が許されるのは大抵スポーツ選手を始めとした特別な職種だけだ。
だが同時に世界には普通ではないものも存在している。神隠しだとか。妖怪だとか。神様だとか。魔物だとか。悪魔だとか。天使だとか。とにかくそういった普通、この世には存在など到底認められていない存在の事だ。
では何故、そんな非現実的な物がこの世には存在するのか?それは人が既知を好みながらも、未知を渇望する生き物であるからだ。知らなくてもいい真実などこの世には山のように存在すると言っても、人はそういった物を求めずにはいられない。
そうやっていなければ、人の生活は何も刺激のないもので終わってしまう。そんな事には耐えられない。好奇心は猫を殺す、という諺があるが何も刺激がなければ人は衰退していくのだ。楽に楽にと望めば望むほどに人は終わりへと疾走している。
人が泳ぎなどという物を覚えるのは何故なのか?それは人が陸地にいながらも海や湖にいることを望むからだ。
人は何故疲れると分かりきっているのに旅行や娯楽を楽しむのか?それはそこに自分を刺激し、人生という物を未知という物で満たす事が出来るからだ。
人は何故賭け事にのめりこんでしまうのか?それはそこに自分が滅びへと誘われるか、成功に導かれるか分からない強大な背徳感が存在するからだ。
つまるところ何が言いたいのかというと――――人はすべからく終わりへと向かっているという事だ。海や湖に行っても死ぬ人間は毎年多くいる。疲れがたまって自殺するという者もいる。賭け事でその身を滅ぼす者はそれこそ数えるのが馬鹿らしくなるほどにいるだろう。
だからこそ人は終わりに価値を見出す。それは例えば死後の世界――――天国や地獄――――であったり輪廻転生という概念であったり。たとえ終わってしまっても死後には何かしらの世界が待っていると言う。どうしてそんな分かりもしないことを何か言うのだろうか?
「……はあ、そんなこと考えてるこっちの方が馬鹿だろうな」
そう言ったのはどこにでもいる平凡な学生こと、白羽満。テスト期間が終わり、アンニュイな気分に浸っている。どうせいつも通り平均的な点数しか取れていないのだろうから。
「な~にが馬鹿だって?テスト期間も終わったってのに何を哀愁に浸ってんだよ、お前は!」
「いてっ!……あのなあ、いきなり叩くんじゃねえよ。俺だって考えに浸りたい時ぐらいあるっつの。学年主席様にはわからんだろうがな」
「はははっ!それはまた珍しい事だな。お前と友達になってからなんだかんだで十年ぐらい経つけど、そんなとこは全然見たことないけど?」
「偶々そういう気分だってことだよ。それよりもほれ、あそこの連中はお前待ちなんだろう?俺に構ってないでとっとと行ったらどうだ?」
「それならお前も来いよ、満。あの子たちも悪い子じゃないんだがな……女子の話ってのはどうもわかりにくい事が多すぎてな。頼むって。この通り!」
「はあ……分かった分かった。ついて行ってやるよ。それで今日はどこに行くんだよ、宗一」
「なんかジェラートを食べに行くとか言ってる。ぶっちゃけ俺としては甘い物よりこう……がっつりとした肉を食いたいな。彼女たちと一緒になってからあんまりファーストフード店とか行けなくなったし」
こんな感じで馴れ馴れしくして来るのは小学校一年のころから行動を共にしている雲雀宗一。成績はいつも学年トップ、運動神経もバリバリでこれまたイケメンという三拍子そろった今時物語の中でもそう多くないような主人公キャラだ。
そんな自分とは全く正反対の立場にいる奴が何の因果か俺と行動を共にしている。いつもいつも絡んできて鬱陶しい事この上ないのだが、きちんとこっちが何か悩んでいるときは相談に乗ってくれるし放っておいてほしい時は放っておいてくれるので特に口出しできないのだ。
「お前らしい事だな……燃費の悪さは相変わらずか」
この男の唯一の欠点とも言っていい所、それは体の圧倒的な燃費の悪さだ。ようするにめちゃくちゃ飯を食う。しかもそれをがっつり頭の運動と体の運動で消費する為、放課後に女子の相手をするのも大変な身なのだ。正直、ざまあみろと思っている。
「そうなんだよな~。ここ最近夜に買い物する羽目になってさ。いくら自分で稼いだバイト代とは言ってもさ」
「お前の親御さん、本当に優しいよな。……うちとは違ってさ」
「それは……俺には何とも言えないな」
苦笑い交じりで言われたのは勿論理由がある。それはうちの両親が子供の自由意思に任せると言って完全に育児放棄を行っているからだ。親が親としての務めを果たしていないのだから俺がそう思っても仕方がないとしか言えない。
「まあ、なんでもいいさ。それじゃあ、行こうぜ」
「そうだな、早く行こう」
どうせこんな事を今語ってもしょうがないのだ。小学生の頃からずっとそうやって生きてきた。それが俺にとっての普通なのだから。宗一もそれが分かっているからこそ、余計な口出しをしたりはしない。どうしようもない事はそのまま流す、それが現代社会において楽な生き方だ。
「もう、遅いよ二人とも。待ちくたびれちゃったよ」
こいつは篠花茜。こいつも俺や宗一と同じ学校の出身で長い付き合いといえるだろう。気楽に接する事が出来る性格のおかげか、クラスでの人気もそこそこ高い。物わかりも良いし、頭の出来はそれほど良くないがそれでも運動神経は大分良い。
「もう、またそいつ連れて行くの?私と宗一に迷惑かけないでよね」
こいつは総蓮司香奈。こいつはこの高校に入ってから馴れ合い始めた奴で、はっきり言ってウザい。勘違いも甚だしい程にこちらを毛嫌いしている。宗一を自分の物と勘違いし、周りの奴は金魚の糞みたいな扱いをし、何よりもそんな自分が愛されているとどうまかり間違ったらそんな方向に思想が行くのか全く分からない。こんな奴と一緒にいる宗一も信じられないが。俺なら一発殴ってそうだからな。
「そんな事を言う物じゃありませんよ、総蓮司さん。申し訳ありません、白羽さん」
この人は柏崎美奈さん。世間的に見て立派なお嬢様。清廉潔白でちょっと硬い部分もあるが、取っ付きにくいと言うほどでもない。駄目な事は駄目とキチンと言える今時の日本人にしては珍しいタイプだ。この中では割と好みだが、そんな理想はとっくに切り捨てているので問題はない。
「別に柏崎さんが謝る必要はありませんよ。俺がぼけっとしてたから待たせたのは事実ですしね。それでどこに行くんだっけ?」
「駅前に出来たジェラート屋さん!ついこの間、お姉ちゃんがあそこに大学生の友達と行ったらしいんだけど凄い美味しかったんだって!楽しみだな~」
「それはいいけどさ……お前、金とか大丈夫なのかよ?ついこの間、『やっばお金使いすぎた!今月ピンチ!』とか言ってたじゃん」
「ふふふふっ。それはね~……何ででしょう~?」
「まあ、別に興味ないけどな。お前の金の出所がどこでどんな方法で手に入れたかなんて。ぶっちゃけそんな事に頭使いたくないし」
「あんたね~自分で訊いといてその言いぐさは何なのよ!?」
「それじゃあとっとと話せばいいだろ?……まあ、どうせお前の事だ。宗一の親御さんの所で短期バイトしただけなんだろうがな」
「え!何で分かったの?」
「このやり取り何回目だと思ってんだよ。それにさっきから微妙に宗一の表情が歪んでるからな。なんとなく分かったよ」
「それより行くなら早く行こうぜ。こんなとこで言い争ってったってジェラートは食えないぞ」
「そうね。いちいち私たちに面倒掛けないでよ。本当に面倒くさいやつなんだから。ねえ、宗一もそう思うでしょう?」
「え?いや、別に……ほら、早く早く、って、え?」
「は?って、何じゃこれ!?足が動かねえし!」
足元に急に魔法陣ってどこのファンタジーもんだよ!おいこら、ふざけんな!今日は予約してたゲーム買って早速やろうと思ってたのによ!なんかめちゃくちゃ引っ張られてるしどういう原理で動いてんだよこの魔法陣は!?
そんな事を考えている間に青く光っていた魔法陣はたちまち真っ赤になり、俺たち五人を引き摺り込んだのだった。