ぴょーにとうずらの卵
ぴょーには人に食べられるのが怖くて怖くて仕方がありませんでした。
そんなぴょーにはある考えを思いつきました。
「そうだ!! 養鶏所から脱走すればいいのか!」
ぴょーには一生懸命転がりました。ころころ、ころころ……。養鶏所から簡単に脱走できました。
「わーい! やったー! 人に食べられないですむぞ!!」
ぴょーにはぴょんぴょん飛び跳ねて喜びました。
しかし、ぴょーには違和感を感じていました。それもそのはず、養鶏所を脱出したバチが当たったのか、ぴょーにから毛むくじゃらの足が生えていました。
「……あれ!? 足が……足が生えてるぅ! うわっ!! しかも臭いっ!!」
ぴょーにの足からは腐ったバナナと納豆を牛乳に突っ込んで混ぜたような異臭が漂っていました。そして、たくさん転がったせいで目はかなり腫れ、たらこ唇になってしまいました。
そう、ぴょーには完全なる半卵鳥人になってしまったのです。
「くっそー……。あ、そうだ! 仲間を集めて旅にでも出よう!」
ぴょーには一人が寂しかったので、ぺたぺたと間抜けな面をしながら近くのスーパーへ向かいました。
途中で山田のオヤジを乗せたパトカーに引かれそうになりながらも、ぴょーにはスーパーにたどり着きました。
「よし! たのもー!!」
いくら自動ドアの前に突っ立っても開きませんでした。ぴょーには小さすぎて機械に感知されなかったのです。
「くっそー……。こうなったら……」
ぴょーには生えたての筋肉ムキムキで毛むくじゃらの足で自動ドアをこじあけようとしました。
「……む……むむむ……ぬぅーーーッ!!」
自動ドアは見事に開きました。
そしてぴょーにはぺたぺたと間抜けな顔でタマゴ売り場を目指して走り回りました。しばらく歩いていると野菜売りコーナーが近くにありました。
野菜売りコーナーをスルーしようとしたぴょーにはあるものを見てしまいました。
ぴょーにと同じようにとんでもなくシケメンなブロッコリーとカリフラワーが異常に絡み合っているのを……。
「……う。これって……BL(ブロッコリーラブの略)なのか!?」
ぴょーには見なかったことにしておきました。
野菜売りコーナーを振り返らず、ぴょーには歩き始めました。
しばらくして、ぴょーにはやっと目的地の卵売り場にたどり着きました。
「ふひぃ~……やっと着いた! たくさん歩いたから汗だくだぁ!」
ぴょーにの足の臭さは『腐ったバナナ』『納豆』『牛乳』そして『いい年頃のオヤジ風味の汗』というコンボで、強烈だがどこか懐かしさを感じさせる臭さになってしまいました。
「俺と仲間になりたい卵はいねぇがー!!」
少し秋田の香りを漂わせながらぴょーには声を張り上げます。しかし、卵たちは棚の高いところに置かれているので気付きません。
「仲間になったら、ここのスーパーから脱出できるんだよ?」
ぴょーにはチャームポイントの足のすね毛を使いながら棚をのぼりはじめました。
「う……ぐぼぇ!! 息が……出来な……い」
「ゲボェェェ……気持ち悪ぃ……」
「……誰!? 加齢臭みたいな匂いを出して腐っている卵は!?」
パック内にいるにもかかわらず、卵たちは刺激的な臭いを嗅いでしまい、ひどい卵は死に、大半の卵は気絶をしています。
「おい!! なんで皆こたえてくれないんだっ!!」
ぴょーにはだんだん悲しくなってしまいました。
誰も仲間になる気がないのだから、棚から降りよう。
「あの……すみません……」
ぴょーにがあきらめかけたその時、小さなかわいらしい声が聞こえてきました。
声の主は、小さなパックの中で一個だけ生き延びた、小さな小さなウズラの卵でした。
「君は仲間になりたいのか!?」
ぴょーにはとても嬉しくなりました。
「僕は人間に食べられるためにここに居るんです」
ぴょーにの質問とは関係のない答えを言いました。
「な……なんで? 君は怖くないの?」
ぴょーにはウズラの卵の考えが気になってしまいました。
「食べられて、そしておいしいといってもらえるのが嬉しくて……。だから、まったく怖くありませんっ!」
ウズラの卵は少し誇らしげに答えました。
「……おいしい……うれしい……怖く……ない」
ぴょーには食べられる恐怖しか考えていなかったので、うずらの卵の考えがイマイチよくわかりませんでした。しかし、ウズラの卵の考えも良いものだと思えてきました。
「そうか!! 俺もおいしいって言われたい! 嬉しくなりたい! やっぱり旅なんかやめにして、食べられるまでずっとここにいる!!」
人間に食べられるのが怖いと思っていたときのぴょ―にがちっぽけに思えてきました。
その後、ウズラの卵は中華丼の具にするという理由で、ぴょーにが来てから三日後に食べられました。
一方、ぴょーにはというと、一日もたたずに若いアルバイトの人のミスでぐちゃぐちゃにつぶされてしまいましたとさ。