『紅い酒』1-1
私は、道に迷った。
ここは、森の中。
キノコを採りに来たはいいけど、まさか迷うなんて。
「ひっ!!」
今、オオカミの遠吠えが聞こえた。
ど、ど、どうしよう。私、食べられちゃう。
足がガクガク震えて、可笑しくもないのに笑いが出て、涙が流れた。
可笑しいのは、私の頭か。なんて、冷静に考えてたり。とにかく私は、混乱していた。
「おい」
そこへ声をかけられたものだから、心臓が止まりそうになった。
カチンコチンになった体の首を回すと、後ろには大きな男が立っていた。
何を切るんだかわからない大きな出刃包丁を持って。しかも、雰囲気にぴったりにそれには、赤黒い血がべったり。
そんなの見たら、逃げるしかないでしょ?
「いやーっ!!!」
私は叫びながら、さらに森の奥深くへと入ってしまった。
「ははっ、元気な奴だな」
男がそう言って、舌なめずりしてたみたいだけど。
「あ゛ーっ、もう死ぬ。もうダメ。これ以上、走れない」
私は、ぜーぜー息を切らしていた。
何処よここ。
汗だくになってて、額の汗を袖で拭う。
「ひぃいっ!!」
何、雷鳴なんかとどろいてんのよ!雰囲気ばっちりじゃない!!
恨めしそうに、雷が光る方向を睨みつけてやった。
強がってみせるものの、目からはまた涙が溢れてきていた。
もう、ヤダこんな処。
「ん?んん?!」
ふと顔を見上げた時、向こう側に大きな屋敷が見えた。
さっきの事もあって、"大きな"っていうワードがあまりいい連想をさせないんだけど、ここに居るよかましでしょ。
私は、大股でずんずか屋敷を目指した。