『カラス』1-2
目の前まで飛んで来て、視界を遮った。
「おい、おい!」
腕で顔を庇っていたのだが、またあの声が聞こえてきた。
恐る恐る腕を解く。
そこには、真っ黒な人間がいた。
墨を全身に塗ったよう。
坊主頭。
真っ黒な目玉はギョロリとしていて、ギラギラと光っている。
服も黒一色なのだが、裾から出た腕は、鱗状に羽毛が生えていた。
人間ではないのは確かだ。
「だ、誰?」
なのに出てきたのはそんな言葉。
「オレ?死の使者さ」
口端を持ち上げ、不自然に笑うそいつの口の中も真っ黒で、歯並びの悪い歯が合わさる。
「何の用?」
「お前、オレらを見てただろ」
そう言って笑った奴の笑い声は特徴的で、喉を押し潰したようだった。
「興味を持ったのさ」
また不自然な笑い。
奴は真似だと言って、所構わず着いて来た。
後から気付いたのだが、奴は他の人には見えなかった。
夜眠る時、ベットの隅に奴は腰を下す。何も明かりのない中、奴は暗闇とうまく溶け合っていた。
なのに、そこにいるという存在感はあった。
いつでも奴の存在は纏わり付いた。
ガクン
あれ?
今、膝が落ち、視界がぶれた。
目を擦る。
疲れているのかなぁ?
それから何度も同じような事があった。日に日に足取りが重くなり、視界は霞んだ。
「そろそろだな」
いつだか、目の前は真っ暗になった。
『オレ?死の使者さ』
ああ、死ぬ運命だったのかな?
でも、それは違った。
今、青い空を見ている。晴れやかな空。
自分には、この空は似合わない。
だって…
死の臭いは歓迎されないでしょ?
「似合ってるぜ」
そう言って、あの不自然な笑みを零す自分が通り過ぎた。
今日も知らせよう。
死の日和を−
終