『カラス』1-1
カラスはね。
もうすぐ死ぬ人がわかるんだよ。
死ぬ人の家の上を飛び回っている時がそうなんだ。
あなたは知ってる?
よく晴れた空に黒い点が見えた。それは、近づいて来て、誰かの家の上を旋回していた。
カラスだ。
昔聞いた、カラスは死ぬ人がわかるっていう迷信を思い出した。
あの家、死人出るのかなぁ?
こんなに晴れやかな一日に、カラスは似合わないと不思議と思う。晴れだって、曇りだって飛んでるのにね。
翌日、確かめにあの家へ行ってみた。
大きな花輪が出ていた。
迷信って意外と当たるもんだね。
それから何だか面白くなって、カラスを追い掛けた。
普段は、ゴミを漁ったり、街路樹や電線の上で休んだり。
気ままで楽しそうだなって思ったり。
あ…あの家を旋回している。あそこに死人が出るね。
やっぱり確かめに行った。次の日すぐってわけじゃなかったけど、死人は出た。
何でカラスはわかるんだろう?
不思議は止められない。
時間さえあれば、カラスを追い掛けた。
そんなある日だった。
いつものように家を旋回しているカラスを見ていると、カラスはこっちへやって来た。そして、頭の上をぐるりと一回りして、飛び去って行った。
何だったんだろう?
死人を確かめに行った翌日、声をかけられた。
それはガラガラの低い声。喉を震わせて喋っているような声だった。
「おい、お前」
辺りをキョロキョロと見回した。人影らしい人影はない。
「ここだよ。ここ」
見当たらない。
「カァーッ」
カラスが一鳴きした。そのカラスは、家の屋根にちょこんととまっていた。
小さな黒い目玉が、じっと見つめていた。カラスと目が合うと、そいつは大きな翼を広げ、重たい羽音と一緒に飛んで来た。
「うわっ!」