『あなたを待っています』1-3
雨が降っている事なんか気にせず、飛び出した。
「ごめん!俺、俺っ!!」
俺と同じようにずぶ濡れの彼女がゆっくりと顔をこちらへと向ける。
ピーポー、ピーポー
救急車のサイレンがして、はっとすると、目の前にいるはずの彼女の姿はなかった。
幻だった…。
俺って、やっぱ馬鹿。
彼女の記憶は、おぼろげになった頃だった。
夜、車を運転していた。
何となく、バックミラーを見た。
「あれ?」
そこには、一本傘が後部座席に立て掛けてあった。
今日は雨っていう予報もなかったし、入れた覚えはないんだけどなぁ。まぁ、前に入れて忘れてたんだろ。
しばらく車を走らせていると、道の脇に人影があるのが見えた。
その人影は行き交うテールライトに照らされ、見え隠れしている。
ちょうど自分の車が近くを通り過ぎた時、少しだけその人影がはっきりと見えた。
長い黒髪を垂らして、俯いたままの女。
何処かで見た気が…。
ポタ…
もう一度女の姿を見ようとバックミラーを覗いたが、そこにはすでにいなかった。目線を前へ戻そうとすると、さっきの傘が目に入った。
「濡れてる…?」
さっきはわからなかったのだが、傘は水滴を付け、座席をぐっしょりと濡らしていた。
ポタ……ポタ……
背筋に冷たい風が通り抜け、鳥肌が立った。
ポタ……ポタ…ポタ
何でだ?何で傘は?
鼓動が早くなる。
佇む女の姿が脳裏に焼き付いていた。脳の中でその姿が再生され、2年前の雨の中の女と重なる。