『だーれだ』1-3
「キャッ」と、沙織ちゃんとその友達は跳びはねる。
「うわっ」
ついでに和喜も。
俺は、そこに近づいた。明かりを照らすと、茂みから一羽のカラスが飛び出して来た。
俺は、呆れたように和喜の顔を見た。
飛び去ったカラスを見ながら、
「なーんだ、カラスじゃん」と、引き攣った顔で和喜は笑った。
沙織ちゃん達もホッと息を漏らした。
「あれ?夏紀くん、その子」
沙織ちゃんが俺の後ろを指差した。
後ろを振り向くと、そこには一人の女の子がいた。
心臓がバクバクいっている。
冷や汗もどっと出て来た。
短めの髪に、赤いワンピーススカート。
あの頃のあの時のままだ。
「迷子かな?」
「お家は何処?」
何も知らない沙織ちゃん達は、女の子に声をかける。
「夏紀…?」
和喜は俺の異変に気付いた。
俺はそんな和喜に、目で訴える事しかできない。
和喜は直ぐさま女の子から俺を離そうと、身動きの出来ない俺の腕を掴んだ。
だけど、俺は動けなかった。
俺のズボンを女の子が掴んだから。
女の子は顔を上げ、俺を見る。
「だーれだ」
女の子が尋ねた。
覚えてるよ。
忘れられなかった。
本当は、見つけたかった。
でも、怖かった。
だって…もうこの世にはいないってわかったから。
口をゆっくりと開く。唇は震え、喉はひどく乾いていた。それでも、声を搾り出した。
「美…代…ちゃん」
声は掠れ、唇同様、震えていた。
美代ちゃんは、ニコッと笑った。