『紅い酒』1-5
今、ドンって音やガリガリって音が。この部屋からね。
そーっとドアを少しだけ空け、中を覗いた。そこには男の姿。
大きな出刃包丁を扱う手元からからピューッと赤黒い液体が噴き出していた。
大仕事みたいで、男が着ているシャツはその液体色に染まっていた。
「?」
何かがコロコロとドアへと転がってきた。
何これ?
私はじっとそれを見つめる。
「ひぃいいっ!!?」
私は一目散にその場から逃げ出した。
あれは…
あれは…
人間の首!!
「あいつバケモノだったんだ!」
無我夢中で走るけど、長過ぎる廊下。出口が見つからない。
「あひゃぁっ」
コケた。
「いったあ」
足を摩っていると、
「見たんだな。逃がさないぜ」と、いつの間にか男が背後に立っていた。
私は逃げようとしたけど、腰が抜けてて動かなかった。はいつくばってでも逃げようとすると、服の襟元を掴まれた。
「うえっ」
「まぁ、見てなくても帰さなかったけどな。俺はお前が気に入ったんだ」
不気味に笑う男。
こいつからは逃げられない。
私の本能はそう言った。
この屋敷の名は、血糊の館。
逃げ帰った人は一人もいない。
「旨い酒だな」
男はワイングラスに入った、鉄の味がする赤黒い酒を啜って言った。
男の足もとには、恐怖におののき、目玉が落ちそうな程見開かれた生首。
うまく切れなかったらしく、引き千切ったように切れ目からは肉が生々しく露出していた。
そこから血が滴り、赤い絨毯を黒く染めていた。
私はワイングラスに注いだ。
紅い酒を。
終