『あなたを待っています』1-1
いつからだろう?
彼女が、佇むようになったのは…
「おい、また例の女いるぜ」
和喜は、俺の家の前に佇む女を見て言った。
「気持ち悪」
と、俺は身震いした。
「あれ、完全なストーカーじゃん。警察行った方がいいんじゃないの?」
「でも、どうせ取り合ってくれないだろ?」
と、俺は溜め息をつき、窓から離れた。
まだ和喜は、カーテンの間から女を眺めている。
「うわっ!」
和喜が突然、窓から飛びのいた。
「どうした?」
「目が合った。怖ぇ〜」
何日も…何日も…
同じ繰り返し。
彼女は必ず、そこに居た。
ある日、我慢できなくなった俺は、彼女に声をかけた。
「あんたさぁ、何でいつもそこに居んの?」
彼女は苛々した俺を知ってか知らずか、俯いたままだった。
艶やかな長い黒髪が、彼女の顔を隠していた。
病気的な色の白い肌に痩せ細った身体。今にも折れそうな腕には、男ものの傘が握られていた。
「おいっ!!」
俺の声に、女はビクッと身を揺らした。
「……わ、私…」
口を開いた女の声は、掠れていた。
「私、迷惑ですか?」
と、女は顔を上げ、真っ直ぐに俺を見た。
瞳には、涙を浮かべていた。その様に、心が揺れたが、こんな奴に同情してはいけないと、振り切った。
「すんげー迷惑」
冷たく言い放つと、女は小さく何かを言った。