夜景にはブルースがよく似合う
・・・あと3つ。
あと、信号を3つ過ぎたら、私たちの関係は終わりを告げる。
3回目の冬は越せなかったわね。とうとう。
また信号が青に変わった。
あと、2つ。
小さな街の、名も無い通りを走っていると、普段は何でもない家の灯りがどうしようもなく欲しくなって、涙をこらえてしまう。
「・・・泣いてんのか?」
そんなわけないじゃない。
そんな優しい言葉はもう、とっくに置いてきたんでしょ?
ラジオから流れるBGM。
夜景にはブルースが、よく似合う。
去年の夏は流行りの歌が流れてたわね・・・。だけど、もう夏は過ぎてしまった。
さっきの言葉が詩の歌詞なら、少しは素直に、泣けたでしょうに。
赤い満月が近付いて来て、二人を乗せたシャトルも止まる。
風も黙って、車の中は静寂だけが喋り続ける。
そう。静寂があんまりうるさかったから、私は目を背けたの。
月はすぐに、青く輝く。
シャトルもすぐに、走り出す。
あと、1つ。
窓の外には夜空と夜景。
流れているのは景色?・・・それとも、私?
あれ。今日は月が見当たらない。
待ってよ。最後までちゃんと見守ってよ。・・・あの初めてのデートの時のように。
多分月と一緒に、涙もどこかへ隠れてしまった。
結局ついに、月は見つからないまま、最後の信号で止まる。
もう・・・。
「お別れだ。」
彼が先に口を開いた。
「そうね。」
・・・そんなのわかってるもの。
「初めて迎えに来た時を、思い出すな。」
彼の目は前を向いたまま。
「やめてよ。」
やめてよ、今更、昔話なんて。
「・・・・・・。」
彼の口はじっと閉じていたけれど。
「・・・・・・。」
私も黙って、相槌を打った。
・・・辛いのは、私だけではないのかしら。
2年という月日は、お互いの存在を無くすには、永すぎた?
一人の人生でなく、二人の人生だった2年間。
・・・明日からはまた、私一人の人生を歩きましょう。
「泣いてもいいよ。」
あなたの前では、泣き虫だった。
「・・・泣かないわ。」
あなたの前では、もう2度と。
信号が青になる前に、私は車を降りる。
あなたは驚き、何か言うけど、窓の外には何も聞こえない。
そして、私は振り向かず、どこかへ向かって歩き出すの。
その時、たった一粒こぼれた雫を、なだめるように月が照らしてくれた。
・・・大丈夫。
きっと冬の寒さが、私の涙を乾かしてくれるわ。
そうね、涙は忘れましょう。
泣いてあなたは戻って来ても、泣けるほど切ないあの頃は、二度と戻って来ないから。