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短編集  作者: 安楽樹
【短編集】
9/42

夜景にはブルースがよく似合う

・・・あと3つ。

あと、信号を3つ過ぎたら、私たちの関係は終わりを告げる。

3回目の冬は越せなかったわね。とうとう。


また信号が青に変わった。

あと、2つ。


小さな街の、名も無い通りを走っていると、普段は何でもない家の灯りがどうしようもなく欲しくなって、涙をこらえてしまう。

「・・・泣いてんのか?」

そんなわけないじゃない。

そんな優しい言葉はもう、とっくに置いてきたんでしょ?


ラジオから流れるBGM。

夜景にはブルースが、よく似合う。

去年の夏は流行りの歌が流れてたわね・・・。だけど、もう夏は過ぎてしまった。

さっきの言葉が詩の歌詞なら、少しは素直に、泣けたでしょうに。


赤い満月が近付いて来て、二人を乗せたシャトルも止まる。

風も黙って、車の中は静寂だけが喋り続ける。

そう。静寂があんまりうるさかったから、私は目を背けたの。


月はすぐに、青く輝く。

シャトルもすぐに、走り出す。

あと、1つ。


窓の外には夜空と夜景。

流れているのは景色?・・・それとも、私?


あれ。今日は月が見当たらない。

待ってよ。最後までちゃんと見守ってよ。・・・あの初めてのデートの時のように。

多分月と一緒に、涙もどこかへ隠れてしまった。

結局ついに、月は見つからないまま、最後の信号で止まる。


もう・・・。


「お別れだ。」

彼が先に口を開いた。

「そうね。」

・・・そんなのわかってるもの。


「初めて迎えに来た時を、思い出すな。」

彼の目は前を向いたまま。

「やめてよ。」

やめてよ、今更、昔話なんて。


「・・・・・・。」

彼の口はじっと閉じていたけれど。

「・・・・・・。」

私も黙って、相槌を打った。


・・・辛いのは、私だけではないのかしら。

2年という月日は、お互いの存在を無くすには、永すぎた?

一人の人生でなく、二人の人生だった2年間。

・・・明日からはまた、私一人の人生を歩きましょう。


「泣いてもいいよ。」

あなたの前では、泣き虫だった。

「・・・泣かないわ。」

あなたの前では、もう2度と。


信号が青になる前に、私は車を降りる。

あなたは驚き、何か言うけど、窓の外には何も聞こえない。

そして、私は振り向かず、どこかへ向かって歩き出すの。


その時、たった一粒こぼれた雫を、なだめるように月が照らしてくれた。

・・・大丈夫。

きっと冬の寒さが、私の涙を乾かしてくれるわ。


そうね、涙は忘れましょう。

泣いてあなたは戻って来ても、泣けるほど切ないあの頃は、二度と戻って来ないから。



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