タマネギの泣ける話
「お母さん、何で玉ねぎをむくと涙が出るの?」
「それはね……」
――その昔、まだ世界に一人の人間しかいなかった頃。神様はその女の人の食べ物としてたくさんの果物を作りました。
果物は、取っても取っても無くならず、おかげで女の人も食べ物に困らずにすみました。その頃は、タマネギもその果物の1つで、皮をむくと取ってもおいしい実がなっていました。そのおいしさは、果物の中でも1番2番を争うぐらいでした。
女の人はタマネギがとっても大好きで、何度もタマネギの実を取っては、それはそれはおいしそうに食べていました。タマネギも、素敵な笑顔の彼女がとっても大好きで、毎日食べて欲しいと思っていました。
でも、神様は次の男の人を作るのに時間がかかってしまい、女の人は長い間一人ぼっちになってしまいます。
ある日、タマネギは木の下で泣いている彼女を見つけ、声をかけました。
「お嬢さん、なぜキミは泣いているの?」
女の人は泣きながら答えます。
「なぜ人間は私しかいないの……?一人ぼっちはもう嫌……」
つらくて女の人は何度も泣いていました。
優しいタマネギは、女の人が一人ぼっちで泣いているのをかわいそうに思って、神様にお願いしました。
「神様、彼女は一人ぼっちで泣いています。僕を地面に降ろしてください」
すると神様は答えます。
「地面に落ちると、今のようなおいしい実はできなくなってしまうぞ。それでもいいのか?」
タマネギは笑顔で答えました。
「――はい。彼女に笑顔が戻るなら」
それを聞いた神様はタマネギを地面に降ろしました。そしてタマネギは、女の人に頼んで自分を地面に埋めてもらいました。
すると、たちまち芽が伸び、地上にきれいな花を咲かせました。
「なんてきれいなお花なの!」
泣いていた女の人も、その素敵な花を見て涙が止まりました。
さらに、その花の蜜の匂いにつられて、遠くからちょうちょも飛んできました。それを見た他の果物も、同じように地面に落ちて、たくさんの花を咲かせます。たちまち、いろんな虫たちがそこに集まってくるようになりました。
「まあ素敵。きれいなお花畑になったわ」
女の人に笑顔が戻ります。
女の人は、もう一人ぼっちではありませんでした。
また素敵な笑顔が戻った女の人は、お礼を言いたくなって、タマネギのところへ行きました。
「あなたのおかげでもう淋しくなくなったわ。またおいしいあなたを食べさせてもらってもいいかしら?」
タマネギは、少し悲しそうに言いました。
「いいよ。地面から抜いてごらん」
言われたとおり女の人はタマネギを地面から抜き、前と同じように皮をむき始めました。
……ですが、一枚皮をむいてもあの頃のおいしそうな実は出てきません。むいてもむいても皮ばかりなのです!
タマネギは言いました。
「地面に落ちて花を咲かせたから、もう僕にはおいしい実はできないんだ」
それを聞いた女の人は、また涙を流し始めました。
「……ごめんなさい、私のために……」
それを見たタマネギは静かに言いました。
「泣かないで。僕はキミの笑顔が大好きなんだ。そうだ、僕の皮をシチューにして食べてごらん」
言われたとおり、女の人は料理してタマネギの皮を食べてみました。
「……おいしい!」
なんておいしいのでしょう!思わず涙も止まってしまうほどです。
驚いている女の人に、最後にタマネギはこう言いました。
「僕はいつでもキミのそばにいるから。キミはもう一人ぼっちじゃないよ」
それを聞いた彼女の目から涙がこぼれます。
――でもなぜか、彼女の顔は今までで最高の笑顔なのでした……。
「……おしまい。だから、久美もタマネギはちゃんと食べないとダメよ」
「うんっ!久美、ちゃんとタマネギさんも食べるっ」