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短編集  作者: 安楽樹
【短編集】
8/42

タマネギの泣ける話

「お母さん、何で玉ねぎをむくと涙が出るの?」

「それはね……」


――その昔、まだ世界に一人の人間しかいなかった頃。神様はその女の人の食べ物としてたくさんの果物を作りました。


果物は、取っても取っても無くならず、おかげで女の人も食べ物に困らずにすみました。その頃は、タマネギもその果物の1つで、皮をむくと取ってもおいしい実がなっていました。そのおいしさは、果物の中でも1番2番を争うぐらいでした。


女の人はタマネギがとっても大好きで、何度もタマネギの実を取っては、それはそれはおいしそうに食べていました。タマネギも、素敵な笑顔の彼女がとっても大好きで、毎日食べて欲しいと思っていました。


でも、神様は次の男の人を作るのに時間がかかってしまい、女の人は長い間一人ぼっちになってしまいます。

ある日、タマネギは木の下で泣いている彼女を見つけ、声をかけました。


「お嬢さん、なぜキミは泣いているの?」


女の人は泣きながら答えます。


「なぜ人間は私しかいないの……?一人ぼっちはもう嫌……」


つらくて女の人は何度も泣いていました。

優しいタマネギは、女の人が一人ぼっちで泣いているのをかわいそうに思って、神様にお願いしました。


「神様、彼女は一人ぼっちで泣いています。僕を地面に降ろしてください」


すると神様は答えます。


「地面に落ちると、今のようなおいしい実はできなくなってしまうぞ。それでもいいのか?」


タマネギは笑顔で答えました。


「――はい。彼女に笑顔が戻るなら」


それを聞いた神様はタマネギを地面に降ろしました。そしてタマネギは、女の人に頼んで自分を地面に埋めてもらいました。

すると、たちまち芽が伸び、地上にきれいな花を咲かせました。


「なんてきれいなお花なの!」


泣いていた女の人も、その素敵な花を見て涙が止まりました。

さらに、その花の蜜の匂いにつられて、遠くからちょうちょも飛んできました。それを見た他の果物も、同じように地面に落ちて、たくさんの花を咲かせます。たちまち、いろんな虫たちがそこに集まってくるようになりました。


「まあ素敵。きれいなお花畑になったわ」


女の人に笑顔が戻ります。

女の人は、もう一人ぼっちではありませんでした。

また素敵な笑顔が戻った女の人は、お礼を言いたくなって、タマネギのところへ行きました。


「あなたのおかげでもう淋しくなくなったわ。またおいしいあなたを食べさせてもらってもいいかしら?」


タマネギは、少し悲しそうに言いました。


「いいよ。地面から抜いてごらん」


言われたとおり女の人はタマネギを地面から抜き、前と同じように皮をむき始めました。

……ですが、一枚皮をむいてもあの頃のおいしそうな実は出てきません。むいてもむいても皮ばかりなのです!

タマネギは言いました。


「地面に落ちて花を咲かせたから、もう僕にはおいしい実はできないんだ」


それを聞いた女の人は、また涙を流し始めました。


「……ごめんなさい、私のために……」


それを見たタマネギは静かに言いました。


「泣かないで。僕はキミの笑顔が大好きなんだ。そうだ、僕の皮をシチューにして食べてごらん」


言われたとおり、女の人は料理してタマネギの皮を食べてみました。


「……おいしい!」


なんておいしいのでしょう!思わず涙も止まってしまうほどです。

驚いている女の人に、最後にタマネギはこう言いました。


「僕はいつでもキミのそばにいるから。キミはもう一人ぼっちじゃないよ」


それを聞いた彼女の目から涙がこぼれます。

――でもなぜか、彼女の顔は今までで最高の笑顔なのでした……。


「……おしまい。だから、久美もタマネギはちゃんと食べないとダメよ」

「うんっ!久美、ちゃんとタマネギさんも食べるっ」


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