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短編集  作者: 安楽樹
【短編集】
5/42

選択

「・・・でさぁ、もうあんな酷い会社、辞めてやったんだ」

「え?本当に?・・・あんなにやる気だったじゃない」

「最初に聞いてた話と違ったんだよ。上司だって全然人の話聞かないし」

「・・・じゃあ次はどうするの?」

「うん、それなんだけどさ。俺、前からアパレル関係やってみたかったんだよね。でさ・・・」


・・・嘘。そんな話、聞いたこと無い。

私は視線を落とすと、黙って残りのお酒を飲み干す。

最近愚痴が多いと思っていたけど、予想した通りだった。

彼が今の会社に勤めてから半年。

正直またか、と私は思っていた。

彼が前に勤めていた会社は、4ヶ月だった。その前の会社も半年。

新しい会社で半年が過ぎて、今度は大丈夫かな、と思っていた矢先の出来事。

まだ夢中で喋り続けている彼に、考え直す気は少しも無さそう。

・・・私は、彼と付き合い始めたときの事を思い出していた。


まだ就職活動中の頃に、偶然説明会で隣になった彼。

飲みに行ったお店で、彼女とうまくいっていないという相談に乗った。

そんな定番の話に釣られて、いつの間にか彼と一緒にいるようになっていった。


会社を選択する方法は、恋人を選ぶ方法と似ていると思う。

時間はかかっても一つだけを絞って受けるのか、とにかく自分が入れそうな会社を選ぶのか。

それと同じ傾向が、恋人を選ぶ時にも見られるような気がする。

・・・いや、違うかな。

その人の人生で、『選択する』という行為において、似ていないものなど無い。

結局あなたは、自分の出来そうな事を優先して選んだ、という事。


・・・そこに私がいたから。

私があなたを好きだったから。

あなたは私を選んだんだわ。

それが悪いなんていうつもりはない。

私だってあなたが好きだったんだもの。

・・・でも。

きっと同じように私は捨てられる。

私に不満をもった時、そこにあなたを好きな人がいれば。


あなたはあなたが好きなのね。

いつも自分が損なわれないような選択をする。

今ごろになって、その事がよく分かった。

・・・私もそろそろ考えたほうがいいのかもね。


たった一つを優先して、十分に時間をかけて決めたとしても、必ずそれが正解であるとは限らないから。


「・・・次、何飲む?」

空になった私のグラスを見て、彼が尋ねる。

私はそれをやんわりと断り、そっとコートに手を伸ばした。


「さよなら。次は正解だといいわね」


私が最後に言ったそのセリフは、一体誰への言葉だったのか。

それはついに、私自身にも分からないままだった。

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