表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 安楽樹
【どこにでもある恋の話】
41/42

【vol.5】忘れないよ、ずっと。

メール恋愛なんて、俺には考えられない。

でも、その向こうに言葉を交わせる誰かがいるだけで、絆は作られるんだと知った。


忘れないよ、ずっと。


仮初めの世界で、

仮初めの僕は、

仮初めの体を持った、

本物の女の子と出会った。


それは、あるオンラインゲームで知り合った、ただの女の子。

第一印象は、「ちょっと面白い子だな。」それぐらいだった。

同じパーティーだったので、同じ時間に入るとよく一緒に行動していた。

その子の現実の顔も名前も知らなかったけど、ただ一緒に遊ぶ、それだけで良かった。

時折ふざけて、『ラブストーリーは突然に』なんかの替え歌を歌っていた彼女。

ある時僕は、彼女が不登校の中学生だということを知る。


「がっこつまんない。」

そう言う彼女に、所詮ゲームなんだから、と思い何も言えなかった僕。

それからしばらく、ログインする事はなく時間が過ぎた。


『 何から伝えればいいのか 分からないまま時は流れて 浮かんでは消えてゆく ありふれた言葉だけ

君があんまり素敵だから ただ素直に好きと言えないで 多分もうすぐ雨も止んで二人 黄昏 』


そしてそのうち僕は現実に戻り、ゲームをやめる事を決意する。

久し振りにログインすると、彼女の名前はパーティーから消えていた。

もう会えないかと思ったが、ある時偶然、彼女は呼びかけに応えた。


『いる?』

「いる!」

『うわ、マジで!久し振り!』


久し振りに会った彼女は、随分と強く、大人っぽくなっていた。

そう、座り方まで。

しかし中身は相変わらずのままで。

再会の喜びも束の間に、僕が別れを告げると、彼女は驚き、残念そうにしていた。


『じゃあ、別れ難くなる前に消えるよ。』

「……いせるさん、ずっと私の兄貴でいてくれますか?」

『おうよ、いてやるよ。』


そんな台詞から、何だか急にしんみりしてきてしまった。

昔の話をしながら、あの歌を思い出す二人。


『 あの日あの時あの場所で 君に会えなかったら 僕らはいつまでも 見知らぬ二人のまま 』


『お前だけが心残りだよ。出会えて良かった。』

「私も会えてよかったです。泣けてきたよ。」


『まさかゲームでこんなに切なくなるなんて思わなかったな。』

「ゲームに泣かされるなんておもわなかった。」


全てが仮初めの世界だから、僕は形に残る絆が欲しかった。

僕がここにいた証を残したくて。

『結婚しようか。……なんとなく。』

「え、なんとなくで血痕!?(汗」

あれ?そう思ってたのは僕だけだったかな。


「でも、会った最初の頃から、

たのしいひとだなぁ

またいっしょに狩りしたいなぁ

あいたいなぁ

と思ってました。」


『……うん、その言葉で十分だ。』

そうか、絆や証なんて必要なかった。


『今目の前にいたら、きっと抱き締めてたよ。』

「わたしも。今じゃなくてもしてた。」


……僕は確かにこの時、恋をしていたと思う。

顔も名前も知らない、画面の向こうにいる女の子に。


『それじゃあ、

がんばって、

生きろよ。』


「きっとまた会える!」


……。

その言葉に僕は返事を返せなかった。

それがきっと10歳も違う僕と彼女との差。


「絶対に忘れないから!」


『これからも、人との出会いは大切にしろよ。』


「私のことも忘れないでね!」


その会話に声は無かったが、そのせいで逆に彼女の心が伝わってくる気がした。


『忘れないよ、ずっと。』


「言葉に出来ないのが残念だけど、本当にありがとう!」


大丈夫。

十分伝わってるから。


『……それじゃあ、行くよ。』


「絶対絶対忘れないから!」


一瞬ためらった後、僕はEscキーを押す。

画面は暗くなり、音だけがそこに残った。


君のために翼にはなれなかったけど ずっと君を守り続けるよ。

柔らかく君を包む あの風になって。


……じゃあな、リッカ。




彼女はまだ若い。

きっと俺の事は忘れてしまうだろう。

でももしかしたら、ある時ふと思い出すかもしれない。


俺は、それだけで充分だよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ