【vol.4】軽く、だけな。
俺には、ノリで付き合うなんて事は出来ない。感情に欠陥があるからか、体に欠陥があるからだ。
ノリで付き合っても、後悔するだけだと知っている。
最初は、ノリの悪い女だと思った。
「今日飲み会あるけど来る?」
「……今日、車だから。」
どうしても誘いたかったわけではない。それならそれで俺は別に構わなかった。
「そう。じゃあもう誘わないから。」
笑顔でそう言うと、「何でだよ。」というリアクション。
そして、口の悪い女だと思った。
それが少し前の話。
また同じように、今回も誘ってみた。
「今日飲み会あるけど来る?」
「……今日、車だから。」
返事は変わらなかった。
「そう。じゃあもう誘わないから。」
俺のリアクションも変えなかった。
「何でだよ、誘えよ。」
やはり、ノリと口の悪い女だと思った。
しばらくした後、俺が壁にPOPを貼っていると、服の裾が後ろから引っ張られる。
「……何?」
「……やっぱり、顔出す。」
そう言ってすぐ、少し照れながらそそくさと立ち去る彼女を見て、彼女に対する印象が少し変わった。
……結構、可愛いとこあるじゃねぇか。
飲み会の席にて。
彼女は下ネタ好きだった。……意外な。
段々盛り上がってきて、彼女は他の女にキスされていた。
「久し振りのキスが女に奪われた~。」
そう言って嘆く彼女に「じゃあアイツに消毒してもらえって。」そう言って周囲が囃し立てる。
……彼女はあからさまに照れていた。
下ネタ好きのくせに。
隣に座っていた彼女は、俺がコップを空けると、何も言わないのに黙ってついでくれる。
……可愛い所見せやがって。
口悪いくせに。
「実は私、結構尽くすタイプなんだ。」ってさ。
更に夜も更けて。
気がつくと酒を飲んでいる彼女。
「私車なのに~。」嘆くぐらいなら飲むな。
「泊まってけばいいじゃん。」と俺。
「……。」
……だからそこで照れるなよ。
何故か、やたら俺と彼女にキスさせようと企む男A。
何かしたか俺?
でも、俺は宴会の礼儀ぐらい心得ているさ。堂々と彼女の肩に手を回す。
顔が赤くなる彼女。
何故か他の男の時と違って嫌がったりしない。
……むぅ。
俺だって、嫌がられれば止めざるを得ないのに。
とりあえず、冗談だって。と俺は回した手を戻す。
それで波は過ぎたと思っていたら。
「だからキスしろって。」
何でそこまでこだわるんだ男A。……いや目が笑ってないって。
「◯◯ーっ!」
オマエも飛びついてくんなって。……酔ってるよ完全に。
はいはいはいはい。とりあえずあやしとくから。
「もう私、今日から◯◯くんと付き合うから。」
おい、そんな話聞いてないぞ俺は。
「キース!キース!」
コールをかけるなって!誰もノッてないぞ。
「……(ん~)。」
オマエも目ぇつむんな!その気になるだろうが。
最初はノリの悪い女だと思ったのに。
……結構可愛いとこあるじゃねぇか。
ったく、しょうがねぇなぁ。
……。
軽く、だけな。
久し振りに女性の唇と触れた僕は、それから3日間十分意識してしまったのでした。
そして4日目、彼女の噂を聞きました。
何でも彼女は、俺とキスした次の日に他の男と付き合い始めたらしい、と。
……まぁまたそれは別の話です。