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短編集  作者: 安楽樹
【どこにでもある恋の話】
36/42

【vol.2】10.こんにちわ、赤ちゃん?

7/9


一日中考えていた。

偶然ネット上で会ったUに話を聞いてもらいながら、自分の考えを整理した。

まず、できていなかった場合は簡単だ。

きっと二人には別れが訪れて、お互いに別々の道を歩んでいくだろう。

その際に、彼女は酷く悲しむだろうがそれは仕方ない。

問題はできていた場合だ。

彼女にはおろすつもりは無いらしい。

私の考えとしては、Uに言われて気付いたとおり、『生んで欲しい』と思っていないから『おろして欲しい』のだと思う。

しかし、何が何でもというわけではなく、要するに彼女の意思を尊重したいという事だ。

そうなると『生む』ということになるが、それには社会的に様々な障害も生まれることになる。

まず当然、彼女の希望である北海道旅行はできなくなる。ましてや一人で移住などもってのほかだ。

そして、子供ができてしまったのだから、『結婚をするのかどうか』という事も関わってくる。

結局、一番の悩みの種は私の立場なのだ。

「できてた?じゃあ結婚しようか。」などと簡単に言えるほどには、彼女への愛情に自信がない。

現在ですら自信がないのに、未来の事となれば尚更だ。

逆に、「できてた?でも結婚しないよ。」などと簡単に言えるほどには無責任な男ではない。私は自分の人生に罪悪感を残したくなど無い。

最初から子供を作るつもりだったのではないが、できてしまう事も承知の上で関係を持ったはずだ。

ならば、できていたとしたら当然その子の幸せを考えてやりたい。

その考えがさらに責任感を強くさせるのだ。


では、彼女の幸せは?好きな人に愛されて、子供を育てていく。誰から考えても、それは幸せだと言えるだろう。

しかし、それが叶わぬ場合どうなるか。

Uが名言を言ってくれた。

『彼女の幸せなくして、子供の幸せは有り得ない。』

非常に納得できる。

ここで私の気持ちと照らし合わせると、迷わず「結婚しよう。」と言えない男とどうなるか分からない結婚生活を送るよりも、いずれ出会うだろう彼女の過去も含めて好きになってくれる相手と一緒になったほうが幸せなのではないだろうか?

と言う考えが生まれてくる。

子供を大事にする自信は有っても、彼女を愛し続ける自信はない。

それが結局の所、私の出した結論だった。


さらにそこに子供の幸せを考えてみる。

最もベストなのは、仲の良い両親がいつも側にいる事だと思う。

それに近い状態にするには、私も子供の側にいてやる事だ。

子供に愛を注ぐ自信は、十分にある。

ようやく慣れてきた一人暮らしを止め、実家に帰る事にしよう。それだけは決めていた。

それから、子供と会っても構わないのであれば会おうと思うし、彼女が引きずるからできるだけ会いたくないと言うのであれば、子供が「どうしても会いたい。」と言う時まで会わなくてもいいとも思った。

どちらにしろ、当然金銭的な援助もするつもりであった。


そして夜、いつものように彼女からの電話があった。不安がっている彼女に、私はおどけた事を言ってリラックスさせる。

優しい言葉をかけて、安心させた。

それから、毎度同じく彼女の過去の話になった。彼女はいつも、元旦那の話をとても楽しそうにする。

今日もその様な感じで旦那の浪費癖を話してくれた。

だが、私は聞いているうちに旦那の考えと行動にイライラしてきて、次第に聞きたくなくなってきた。

そして時々、私の考えで旦那に対して文句を言っていた。

すると彼女も段々腹が立ってきたようで、「でも、すごくいい所もたくさんあったいい人だったよ!」と旦那の事を庇って反論してきた。

私はそれもますます気に食わなかったが、少し冷静に一歩引いて、「確かにそう言う部分もあっただろうけど、俺は今の話の部分は理解できないし、腹が立ったから。」と彼女に伝えた。

しかし今度は彼女の方が感情的になってしまったらしく、「でもいい人だったもん!」の一点張りになってしまった。

価値観の違いを彼女に納得してもらうのは無理なのだろうか?

……次第に私は何でそんな話を電話で聞かなければならないのか、と感情的になってきて、何とか電話を切ろうとし始めた。


要するに、私は怒っていたのだ。それとも……嫉妬?

ともかく、彼女に怒っている事を伝え、もう切るよと言うと、今度は急に彼女は謝りだした。

「怒んないで!ごめん!ごめんって。」

しかし、一旦へそを曲げた私は頑固だ。絶対に切る気でいた。

それでも彼女があまりに必死で頼むので、仕方なく譲歩し、「じゃあ、少し冷静になるから30分待って。風呂に入ってくるから。」と交渉成立させて、風呂に入ってくる事にした。

いつも長話になるので、寝る準備も出来ていなかったし。

少し泣きそうになっている彼女を突き放して、私は電話を切った。


……たまには、怒ったふりをしてみるのもいいだろう。

もう既に、必死で謝ってくる彼女を見て、かなり機嫌は直っていた。

さて、ゆっくりと風呂に入りながら、もう一度自分の気持ちを整理してみる。

途中でメールが届く音がしたが、どうせ彼女だろう。

慌てて出る必要も無いと、そのまま放置しておいた。


『考えすぎて、好きという気持ちがはっきりと分からなくなってしまったのではないか。』

『ただの同情だったのではないか。』

『責任感の中に、恋愛感情も含まれていたのではないか。』

『実は、相性はものすごく良いのではないだろうか?』

『このまま一緒になってもいいような気もするな。』


そんな事を考えながらも風呂から出て、ゆっくりと寝る支度をしてから、届いたメールを見てみた。


『……どうにでもなれ気分で検査してみたら、陰性だったよ。色々ごめんね。』




……。




一つだけ言わせろ。


どうにでもなれ気分で検査するんじゃない!


台風は、通過した。

昨日、あれからまた電話をして話したが、彼女はやはり泣きじゃくっていた。

正直、出来てて欲しかった、と言っていた。


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