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短編集  作者: 安楽樹
【どこにでもある恋の話】
32/42

【vol.2】6.一度目の別れ

6/3 一度目の別れ


それは、バイト先での俺の送別会の日。


「だって淋しくなっちゃうもん。」だと!?

こんな時に突然可愛らしくなりやがって!?

いい加減にしやがれ!

今まで散々図々しく押しかけといてそりゃないぜ!

……という気持ちは億尾にも出さず、なんとか説得してくるように仕向けた。


RRRRR……。

「来ないの?」

「……行かない。」

「なんで。」

「……寂しくなるだけだから。」

「でももう今日が最後だよ?」

「……うん。」

なんてことを繰り返していて、でもどうしても来そうになかったので「わかった俺が行くから。4時には着くよ。」と強引に着替えて迎えに行く。

これが最後なんだけど、俺のテンションは高く、いつものノリだった。

でもそれで良かったと思う。

うちに着いて、とりあえず寝る。

やはり眠かったのか、二人ともすぐに寝付いてしまった……。


とうとう最後の朝だ。

妹もも今日発つらしく、朝早くから隣の部屋で準備をしていた。

おかげで彼女の連れてきたマーティが騒ぎ出し、家の中で「ワンワンッ!」……まいったね。

「ごめん、ほんとごめん!」

俺は謝るしかなかったし。

さてマーティも落ち着いたと思ったら、彼女に手を出そうとすると唸りだして、彼氏よりもタチ悪いね。

まあどうせ生理だったので何もできんかったけど。

でも代わりに、何度も何度もキスをした。


彼女は何度もキスをした。

息をするほどキスをした。

本気で飽きるぐらいキスをした。

数え切れないキスをした。

……別れが決まっている恋愛関係ってのも悪くないかもしれないと、思った。

地球は止まる事はなく。

そろそろ準備しないといけない時間だ。

「泣いてよ。別れが演出されないから。」

俺はそう言ったけど、彼女は少しも泣かなかった。

「そろそろ時間でしょ?」

そう切り出したのは彼女だ。

「……うん。送るよ。」

俺は立ち上がった。

「……もうちょっと早く会いたかったです。」

最後に彼女はそう言った。


昼下がりの道路はもう熱気に満ちていて、窓を開けて走ると心地よい風が入ってくる。

隣では、俺があげたイルカの抱き枕を抱えた女の子が、反対側の窓の外を見ていた。

その姿を見た俺は、不意に強い感情が込み上げてくるのを感じる。


――こんな俺に惚れてくれて、勝手に旅立つ男を彼女は一体どんな気持ちで見送るんだろう――


そう考えて、(俺は本当にいい女とばかり出会えたなぁ……。)

深くそう実感していた。

……気が付くと、目には涙が。


(俺の方が泣いてどうすんだよ。)


……そう思ったが、涙は止まらなかった。

なんで泣いているのか、自分でも分からない。

ただ、健気な隣の少女の事を思うと、涙が流れるのだった。

彼女のために流す涙が一粒ぐらいあってもいいんじゃないかと、思った。


「……泣かないでよ。忘れないから。」

こっちに気付いた彼女は、少し慰めるように、俺にそう言った。

俺は、その言葉がまた嬉しくて、さらに強く唇を噛み締めた。

空は、さわやかすぎるほどに晴れていて、そこから別れなんて言葉はどこにも見つからない程、澄んでいた。


帰ってくると、こんなメールが。

『件名:ありがとう』

ごく普通に、感動した。


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